【短編小説】死の狭間で

『死の狭間で』
 
 人間の平均寿命は約80年。江戸時代の人は40代で死んだというからだいぶ長寿になったものだ。

 しかし、生まれてきた人全てがその天寿を全うするとは限らない。

 病気、交通事故、自然災害と危険要因は多い。

 もし80歳まで生きることができたらそれはきっと運がいい事なのだろう。
 俺は今26年間という短い生涯を終えようとしていた。
 なぜならば、まさに今乗っている飛行機が墜落しようとしているのだ。
 運悪く交通事故に遭遇して、仕事のために予約していた新幹線の時間に間に合わなくなってしまった。ところが運良く俺の隣にいた人が空港に向かうというので便乗させてもらうことになった。
「困ってる人がいたらお互い様ね!」と屈託の無い笑顔が忘れられない。
 おまけに俺の席まで一緒に予約してくれたのだ。


 こんなにも良い人が世の中にいたのかと俺は感激していたのだが…まさか乗った飛行機が墜落するなんて信じられない!
 とりあえず遺書を書こうとペンと紙を取り出す。揺れる機体で書くのは困難だったが、それよりも困難だったのは誰宛に書くかだ。
 両親は俺を捨ててペルーだかチリだかに移住したのだ。理由は知らないがとにかく捨てられたのだ。だから児童養護施設で育ったのだが、極度な人間不信に陥っていたために友達なんてできた試しもない。
 彼女はいたが、3日前に別れたばかりだった。
「あんたなんか死ねばいいのに!」と吐き捨てられた。あれはたまたま冷蔵庫にあったプリンを食べただけだ。
 それなのに彼女はまるでキングコングのように怒り、ヨガで鍛えられた張り手が俺の頬に炸裂したのだ。
 俺は首を負傷し、奥歯を損失した上に彼女からはゴキブリでもこんな酷いことは言われないだろうという罵詈雑言を浴びせられ家を追い出されたのだ。
 ちょうど海外出張という事も重なりジンバブエで羽を伸ばそうと考えていたのだが…。

 結局、遺書を書くのはやめた。機体は徐々に高度を下げて大きく揺れ、その度に大きな悲鳴が上がった。

「あのー、すいません。」
 隣の席から黒いスーツを着た男が声をかけてくる。綺麗に分けた七三と丸眼鏡といういかにも日本のビジネスマンといった風体だ。
「なんですか?この忙しい時に!」
 俺はやや乱暴に言い放つと男は懐から名刺を1枚取り出した。
 その名刺には少し変わった肩書きが書かれていた。

『1級死後転生相談士 黒井太郎』

「何ですか、これは?」
「いや~、私はその~死神でございましてあなた様は死後についてどうされたいのかな~って思いましてね。どうですか?ここは一つ私に任せてみては?」

「あのさ、今の状況わかってる?もう俺達死ぬんだぜ?」

「ええ、だからこそ死後について今の内に手続きを済ませておいた方が宜しいかと思います。死んでからですとなかなか手続きに時間がかかるのですよ。それで転生が遅れてしまい、本人が希望されないものに強制転生されてしまう事が多々あるんです。不浄化されても困りますしねぇ」
「こんな時に冗談もよしてくれよ!死ぬ間際にこんな話して人生を終えるのが1番悲しいわ!!」
 俺は鼻息を荒くして黒井の話を無視する事に決めた。せめて人生最後の瞬間くらい有意義な時間を過ごしたい。
 
「あなた様は今とてつもなく運が悪いと思ってますか?それはそうでしょう!こんな飛行機に乗ったばかりに死ぬことになるのですから。しかし、あなた様はここで死ぬ運命になっていたのです。気が付きませんでしたか?度重なる奇跡的な偶然の出来事でわざわざこの飛行機に乗って来られたのです。あなた様の足で」
 黒井は膝を叩き軽快な音を出す。そして俺に顔を近付ける。

「あなたはとても運が良いのです。生きてる内に次の転生先を自ら決める事が出来るのです。そのお手伝いをするのが私の役目です。ええ、お代は格安にサービス致しますのでご安心下さい」
 黒井は真っ白な歯を見せると歯の隙間から息を漏らし笑った。

「わかった…どうせなら綺麗な女性と手を繋いで逝きたかったけどさ。隣はあんただし、反対の席は爺さんときたもんだ。俺もつくづく運が良くないらしい」
 黒井は「まあまあ 」と言いながらバッグから1枚の紙を取り出す。
「これがあなたの転生リストになります。人気の転生先が記載されてますので強い希望が無ければこちらから選んでいただきますが?」
 リストには蝉を始めとして様々な生き物が記載されていた。
「蝉、クラゲ、ナマケモノ、ナマコ…なんだ?ろくなものがないじゃないか!?人間は無いのか?」
 俺は憤慨しながら黒井に紙を叩きつけた。

「人間は今のあなたの魂では無理なんですよ。人間になるには魂の徳を重ねないとダメなんです」
 丸眼鏡を上げると口元を歪ませ笑みを浮かべる。

「徳だと?俺は今まで犯罪も犯したことは無いし募金もしてる。一人で会社を立ち上げ今じゃたくさんの従業員を養っているんだ。徳ならそこらへんの奴らよりもあるはずだが?」
「あくまで人間の立場としてですね?」
「どういう事だ?」
「あなたの主観なんですよ。徳というものはそういうあなたが思っている善行だけを指すものではないのです。説明すると長くなるので割愛させていただきますが、現時点で選べるのはこのリストにあるだけとなります」
 
 納得のいく説明を聞きたかったが墜落まで10分とかからないだろう。
 最後の時間をこんな冗談で終えることになろうとは…落胆する俺を尻目に新たに紙を差し出す。
 
「ではこうしましょう!まずあなたはこの蝉になるんです。蝉は大変人気がありますが回転が早いので空き枠もあります。生涯の半分以上を土の中で過ごすために徳を貯める事ができるんです!」
「ほう、それで次は人間になれるのか?」
「なれますとも!でも蝉の生活を一度体験致しますと再び蝉になりたいと申し出る方が多数ですがね~」
「まぁ、人間みたいにあくせく働く必要もないしな…そうだな、蝉になってみるのもいいかもしれない」
「では、決定ですね!ではこの契約書に判子を…いや拇印で構いません。」
 差し出された契約書に拇印を押そうとするとそこには目を疑う事が書かれていた。
 
『私の全財産を寄付致します。』
 
「おい!これはどういうわけだ!全財産を寄付だと!?出来るわけがないだろう!!」
 俺は思わず怒号を上げると黒井は眉間にシワを寄せ睨みつける。
「これが徳なんですよ。せめて最後にこれ程の徳を積んで、蝉になって貯めておけば人間に転生する事は容易いのです。あなたの善行はいわゆる自己満足に過ぎないのです。あなた自身が気持ちよくなるためにしている事に過ぎないのです。徳を積むということは自己を犠牲にして困っている者を救う事にあるのです。あなたの寄付金は恵まれない子供たちのために使われます。もちろん一部は報酬としてもいただきますがね」
 黒井は戸惑い目が泳いでいる俺をジッと睨み契約を促す。
 
「あなたの財産を狙っている方がいるんじゃないですか?でもその方はあなたを必要とはしていない。あなたが持つお金だけに興味があるのです。あなたが亡くなった後は必然的にその方のものとなるでしょうね。果たして有効に使われるでしょうか?」
 俺は3日前に別れた彼女の事を思い出していた。ゴキブリ以下だと罵倒され家を追い出された屈辱…!
 別れたといってもそれはただの言葉だ。俺の死後に彼女が財産を奪い取るのは簡単だった。家を追い出された時に実印を置いてきた事を思い出したのだ。
「あんな奴に渡すくらいならもっと有効に使ってほしい!これで俺の徳は増えるんだな!!」
「ええ!それはもう!」
 黒井は満面の笑みで両手を叩く。俺は多少戸惑いながらも拇印を押した。

「確かにこれで承りました。では今度はこちらの薬を飲んで下さい。」
「なんだ?これは?」
「水が無くても飲めますよ。これは飲むと気持ちよく死ぬことが出来ます。苦痛もなく、恐怖もありません。まさに眠るように逝く事が可能なんです。さすがに墜落の衝撃で激痛にのたうち回ってから死ぬのでは嫌でしょう?」
 黒井の言葉に頷くと薬を迷いなく口に放り込んだ。
 すると体の力が抜けて気持ちよくなってきた。まさに空を飛ぶような気持ちよさだ。
 
 
 黒井が差し出した薬を飲むと男は深い眠りについた。永遠に目が覚める事はないだろう。

………

 黒井はやれやれと溜息をつくと男の手から契約書を取る。そして、埃を払うようにすると契約書の文字が消えて下から遺言状の文字が現れた。
「私の役目はここまで。あとは『あちらの死神』に任せるとしましょうか。この世にはまだまだ迷える魂が存在してますからねぇ」
 黒井は丸眼鏡を拭きながら“奇跡的”に着陸に成功した飛行機を降りた。


あとがき

これは『デス・ドアーズ』で使用しようと思ったエピソードでしたが飛行機の中ということで少し物語の組み立てが難しいと判断してボツにしたものです。

それを主要人物を差し替えて黒井太郎という『死のセールスマン』を登場させました。

デス・ドアーズ自体はまだそんなに話は進んでいないのですが、この黒井太郎は死神という属性ではないんですよね。若干本編にも関わってくるのですが、死後のことや転生を促す死のセールスマンの働きとはどんなものなのかはまだ謎のままにしておきましょう。

【孤独飯】ピザカルボ米沢中田町店のスペシャルクワトロフォルマッジオ

今日はめちゃくちゃ忙しかった…現場二つかけ持ち…交通事故の怪我なんて治る暇もないくらいに腰をいじめている。

朝起きたと思ったらあっという間に夜になっていた。多分気絶していたのだろう。

今夜の飯は…と。

『ピザカルボ米沢中田町店』のピザにしました。

家の近くにピザ屋があると太るという説は正しいのかもしれない。

颯爽とカウンターのメニューに目を通し、太い黒縁の眼鏡がよく似合う可愛いスタッフさんに向かってオーダーする。

「スペシャルクワ…トロ…フォ、フォ…あ、これください」とメニューを指差す。めちゃくちゃ噛みまくって発音できなかった。

それとチキンバスケット6個。実はピザカルボはピザだけではなくから揚げも美味しいのだ。とにかく好みの味付けで大好きだ。

10分ほどで焼き上がり外まで見送られ気持ちよく店を出る。このでかいピザ箱を持って歩いてるとワクワクするなぁ…とホクホクしてたら後ろから「すいませーん!」と先程見送ってくれた可愛いスタッフさんが追いかけてくる。

何事かと思った。釣り銭受け取り忘れたか!?と思ったら

「メイプルシロップを入れ忘れたかもしれません」と息を切らしながら確認すると確かに無い…へぇ、メイプルシロップが付くのかぁ。再び見送られ部屋へと帰る。

チキンバスケットとハイボール。

前回は日本酒で失敗したのでオーソドックスにハイボールだ。それも大好きなハニー&レモン。私は角よりもトリス派だ。

安いからね!

これがスペシャルクワトロフォルマッジオ!耳にソーセージが入っているのだ。

これが890円だなんて信じられないだろう。

サイズも圧巻のボリューム。とてもいいチーズの香りがたまらない。

早速ハイボールを喉に流し込む。プハッ!美味い!レモンのスッキリさとはちみつの上品な甘みがクセになりそう。

チキンバスケット6個。一つ一つが大きいのに6個で390円。安い!けど美味い!

衣の味付けも良くてカリカリの食感と噛んだ瞬間に溢れ出るチキンの旨みがたまらない。500円未満で手に入る幸せ。

そしてピザを口に放り込む。チーズたっぷり!4種のチーズの香りが部屋の中に広がり幸せ空間の出来上がりだ。

三角の先の方から食べていくと最後は耳に入ってるソーセージはパリッパリ!そして耳はサクッとしながら中身はモッチリ!美味い!

最後まで飽きさせない。一切れ二切れと次々食べてハイボールで流していく。ピザとハイボールは合うなぁ。エンドレスループできるんじゃないかなぁ。

おいおい、人生こんなに幸せになれていいのかい?と誰もいない部屋の中心で問いかける。

スペシャルクワトロフォルマッジオはとても贅沢な味わいだ。本当に美味しい。こんな低価格でこんなに美味しいピザと可愛いスタッフさんの接客受けられるなんて最にして高であると言わざるを得ない!!

あっという間にピザを平らげハイボールを飲み落ち着いたところで箱を片付けたら

あ…

完全に忘れていた…せっかく走って追いかけてきてくれた可愛いスタッフさんの思いを不意にしてしまった…。

さて、こんなに低価格で美味しいピザを提供してくれるピザカルボですが山形県にしかありません。

ですが、なななんと!!

宮城県にも進出予定だそうです!!

ヒャッホー!最高だぜ!!

おっと、思わずピッツァーハイになってしまった…。どこに出店するかはまだわかりませんが利府町辺りに出店してほしいです!!

ピザカルボ最高だぜ!!

【カップ麺】支那そばや監修のカップ麺が発売されるぞ!

↓↓↓元記事

https://gourmet.watch.impress.co.jp/docs/news/1360244.html

あのラーメンの鬼、佐野実氏創業の支那そばやが監修したカップ麺がファミリーマートで発売されるそうです!

支那そばやファンとしては買わないといけませんね!

でも当たり前な話なんですが、実際店で食べるのとは全然違うんですよね。これは仕方がない話なんですが、完全に再現されたら店で食べるメリットがないですもんねぇ…。

過去にも支那そばや…というか佐野実監修のカップ麺はありました。私は何度も購入して食べたものです。

まぁ、正直な感想を言うと…それほどでもないかな?って感じでした。まぁ、当時はガチンコの『怖い佐野実』のイメージでしたのでややアンチな感情はあったのかもしれません。

カップ麺は限界があると思いますね。コスト的な問題もありますし、300円に達するとカップ麺である必要がないのではないかと。

もう店で食べろ!って感じですよね。

袋麺でもみずさわ屋さんのも全然味が違いますし、あくまで入浴剤の各地の名湯シリーズみたいなものなのかなと。

カップ麺はどれも美味しいのですが名店の監修シリーズはちょっと胸がときめきますね!

【孤独飯】ピザカルボ米沢中田町店のピザ

さて、仕事で米沢まで来てしまった。

米沢というと有名なのが米沢ラーメン。米沢ABCなどあるが私には無縁そうなので今回はスルー。

仕事を終えて晩飯と行きたいところだがさすがに二万歩近く歩くと脚は棒のようになってしまった。

ここはテイクアウトで部屋でゆっくり食事をとることにしようか。

そこで考えていたのが山形にしかない激安ピザ屋の

『ピザカルボ』である。

これはテイクアウト専門のお店でありながら焼きたてを食べられるのだ。価格は500円~というピザとしては激安。しかもクオリティはそこらのピザ屋と遜色ないということだ。

お店に入ると元気なスタッフに出迎えられカウンターのメニューを見る。

どれも美味しそうだ…。しかも安い。

今回選んだのは

ベーコンとたっぷりマヨコーンのピザ

特製ペパロニのピザ

である。

オーダーしてから10分ほどで提供された。

眼鏡がよく似合う可愛いスタッフさんに店の外まで見送られて気分良く部屋に向かう。

1000円ちょっとしか買ってないのにこんなに丁重に扱われるとは嬉しいなぁ。

部屋に戻ると買っておいたカップ酒を取り出してご機嫌良くテーブルに置いた。

箱が可愛い。かなり大きいものだ。

特製ペパロニのピザ。…てかめっちゃ焦げとるやん!?

でも私は細かいことは気にしない主義だ。人生は長いようで短いものだがつまらないことで腹を立てていたら人生なんてあっという間に過ぎ去ってしまう。時にはこういうシチュエーションがあった方が良い刺激になるのだ。

それにチーズは焦げ目が美味いものだよ。

早速いただきます。

うん、熱い。生地も外はサクサクで中はモッチリしてるが弾力が強い。歯槽膿漏なら歯が取れてしまいそうだ。

チーズの香ばしさがたまらない。美味しいな。

でも…絶望的に日本酒と合わない。

これは私の選択ミスだ…。

せめてハイボールにしておけばよかったか…。

続いて2枚目…うむ、実はもうすでに腹一杯になってしまった…でも明日になると固くなって美味しくないのだ。部屋には冷蔵庫も電子レンジも無い。ただ寝るだけの独房みたいな部屋なのだ。

ベーコンとたっぷりマヨコーンのピザ。

ピザカルボでは最安値となる500円だ。500円でもこのクオリティだ。圧倒的な耳のボリューム…!

ベーコンとマヨコーンの組み合わせは反則的で背徳感のある味わいだ。

更には日本酒だ。とにかく口の中がスッキリしない。

でもマヨコーンピザは美味しい!近所にあったら間違いなく太るな…それくらい頻繁に通ってしまいそうなお店なのだ。

2枚食べてお腹はパンパンで脱いだズボンが入らないくらいだ。あとはたまに早寝をして明日に備えるとしよう。

米沢の夜は更けていく。

【心霊】開けるな

幼少の頃、母と暮らした貸家は小さな平屋の木造建築だった。

台風となれば天井から水が染み出すボロ屋だったが決して裕福ではないので雨風が凌げるだけでも十分だった。

その日も雨が降っていたと記憶している。パタンパタンとトタン屋根を雨が叩く音が聞こえていた。

その音に紛れて低い男の声が外から聞こえた気がした。

「…てくれ」

確かに聞こえる。それは酷く弱ったような掠れて細い声だった。

黒いすりガラスの玄関の扉からは何も見えない。人の姿は確認できない。

恐る恐る近寄るとその声は徐々に鮮明になっていく。

「開けてくれ」

なんとなく聞き覚えのある声だ。扉を開けようと鍵に手をかけた瞬間に背後から母に制止された。

「何してるの!?」

その表情は鬼のように恐ろしい顔をしている。それは怒りと言うよりも恐怖に歪んだような顔だ。

「開けてくれってゆってるよ」

そういうと母は眉間にシワを寄せる。私と玄関を交互に見ている。

「開けちゃ駄目!」

「でも…」

私が迷っていると突然風が吹いたように扉がガタガタと揺れだす。

「開けてくれ!」

男の声はさっきよりも大きい。

「開けちゃ駄目!」

母の声も強く大きくなる。

「開けてくれ!!」

「駄目!!」

扉はおろか家全体までがガタガタと震え出した。まるで地震のように家が軋む。

男は扉を無理矢理開けようとしているのか。私は恐ろしくて耳を塞ぎ身を丸くしていた。

どれほど続いたろうか。風の音も雨の音も止み、部屋の中は壁掛け時計の針の音だけが鳴っていた。

母は何事もなかったかのように

「早く寝なさい 」と言った。

あとから聞いた話は親戚のおじさんが焼身自殺をしたらしい。

そうだ、あの声は親戚のおじさんの声だったのだ。

おじさんは亡くなった後に何を言いに家に訪れたのかはわからない。そしてあの日に聞いた声は私にしか聞こえていなかったらしく、母は「台風の夜に遊びに出ようとしていた」と言っていた。

あの夜、扉を開けたら何が起きていたのだろうか?