【温泉】米沢の平安の湯

私は労働を終えて部屋にゴロリと横になった。

ほのかに納豆のような匂いがする…納豆なんて最近食べたかな?いや、もう何年も食べてない。

決して嫌いではなくてむしろ好きなのだが食べようと思わないのだ。

来る日も来る日も同じものを食べ続けていた。食生活に関して言えばお金持ちに飼われている犬や猫以下だと思う。

匂いの発信源は自分だと思った。そういえば最近はシャワーばかりで浴槽に浸かることがなかった。シャワーばかりだと肌の表面だけが綺麗になって毛穴の奥に溜まった汚れは落ちないらしい。

もっともにして超ド底辺労働者だから真冬でも汗をかいて仕事をしている。埃や油にまみれて、時にはゴキブリやカマドウマ、カメムシとも戦わねばならない。臭くなって当然だ。

ちょうど部屋の近くに温泉施設がありそこに向かうことにした。

GoogleEarthより

昔の健康ランドみたいな古い施設だ。

源泉かけ流しである。温泉天国山形ならではの贅沢なんだけど超低価格なのだ。

中に入って下足入れに靴を入れると券売機に向かっていき入浴料300円を払って、カウンターに下足入れの鍵と共に差し出すとロッカーの鍵を渡される。

カウンターから左手に向かうと浴室があるのだが廊下の右側には床屋と整体が隣接している。なんか昭和レトロな雰囲気があった。

ロッカーに向かうと私のロッカーの鍵だけが特殊でボタンを押しながら操作するものだった。脱衣室には見事にご老人だけがいる。

300円か~…安いのは嬉しいのだが安い温泉施設は民度が低いのだ。

必ず地元のヌシがいるからだ!!

それも常連ジジイ共が洗面台に洗面用具を置いて場所取りなんか日常茶飯事である。その場所を使おうものならば

わざわざ水で濡らしたタオルで背中をビターン!と叩かれて激怒されてしまうのだ!!

これは私が体験した実話だ。私の背中を叩いた後ジジイは

『ここは俺の場所だ!!この洗面道具見てわがんねえのがっ!?』と怒鳴ったのだ。

当時私はガリヒョロだったので弱そうな人だったのだ。あの悔しさから2年間体を鍛えて鍛えて武藤敬司みたいな体を作ったらそんなことは無くなったが…

今は交通事故の怪我でトレーニング出来なくてサモ・ハン・キンポーになってますがね…!

早く治してあの体を取り戻したいものです。そのためには温泉に浸かって回復を早めなければなりません。

体を洗って…っと、おおっ!?早速脱衣室から直接湯船にダイレクトに入っていくジジイが…!?

せめてティンボルと尻くるいはサッと洗ってほしいものだ……。

私はきちんと洗ってから入る。ていうか自分1人しか入らなくても最初は体を洗わないと気持ち悪い。

まず内湯から…うぉた!熱っ!?

43度!!一瞬油断していたために熱くて驚いた。公衆浴場にしては熱い温度設定だ。

湯量も豊富で浴槽の深さも十分だ。入ってしまえばとても良い湯加減。見ればサウナもある。300円の公衆浴場でサウナがあるなんて凄いな!

湯ざわりは塩化物泉で無色透明無臭である。若干肌がヌメヌメとする感じが温泉っぽい…と思いたい。いや、さっき脱衣室からダイレクトに入っていった姿を見るとね。1人や2人じゃないだろうしそれが積み重なって…ということもあるからね。

そしてここには露天風呂があるのだ。300円の公衆浴場で露天風呂って凄いな!

早速ドアを開けて露天風呂の方に移動する。

(…露天風呂?)

結論から言うと全く空は見えなかった。だけど位置的には温泉施設の外にある。でも中だ。

つまり、自転車小屋みたいな場所に浴槽を作ったらこうなった的なものだった。露天風呂と解釈してもよいものか…。

階段を上がっていくのだが途中に両サイドにすのこが置かれており、そこで茹で上がった体を冷やすことができるらしい。

まるでトドのように横たわっている人が複数いた。

露天風呂の方は内湯に比べてだいぶぬるい。41度くらいだ。これならゆっくりと浸かることが出来る。なんにも考えずにぽんやりと浸かるには本当に気持ちが良い。

しかし山形は温泉が沢山あって格安で入れるのがいいなぁ。私の自宅の近くにも温泉があるが結構高いのだ。それも本当に温泉なのか怪しいものだが…。

底辺労働の疲れが癒えていくようだ。とにかくこの酷い痛みが緩和されらば嬉しいことこの上ない。温めている分にはとても良いのだが少しでも冷えるとすぐに痛くなるのだ。

交通事故の怪我というのはその辺にぶつけたとか転んだとかとはまるで違うダメージを被ることになる。普通に生きてればありえない程の衝撃を受けるのだ。

20分程浸かって施設を出る。

体はポカポカと火照っている。実に調子が良い。これなら明日も頑張れるだろう。

300円の割に結構良いお湯だった。汚れの方は若干気になったが…300円だからこの程度だろう。無論、洗面用具を置いて場所取りしてるのも散見できたが…300円だしね。民度的にこんなものだと思う。

【ラーメン】支那そばや石巻のかけらーめん

朝起きると突き抜けるような空が広がっていた。

布団の中でゆっくり伸びをすると起き上がる。気持ちが軽い。これが日曜日の高揚感なのだ。

こういう日は女川に遊びに行きたいな。そういえば昨日土曜日は女川ほどまるしぇが開催されたらしい。

なんか楽しそうだったなぁ…私も行きたかった。地域を盛り上げるイベントって活気があってこっちも元気貰えるんだよね。

でも超ド底辺労働者の私は日曜日しか休みがないために無縁な話だった…。

境遇の違いを嘆いても仕方がないさ。自分の置かれた環境で楽しめることをすればよいよい。

適当に朝食を食パンで済ませると近付いてくる冬に備えてスタッドレスタイヤを用意する。1本パンクしていたのでガソリンスタンドにて修理を依頼する。ものの30分で修理完了。

さすがプロだな。

あとは適当に家事をこなしていたら時間は昼に近付いていた。あの店に行こう!

と向かったのは石巻方面。高規格道路をビュンビュン追い越されながら走ること40分。

支那そばや石巻さんです!

もう今年は何度訪れたかわからない。それくらい食べている。来る日も来る日もかけらーめんを食べ続けたのだ。それでも飽きることはない。

貧乏だから やはり麺とスープだけを味わえるのは贅沢なのだ。

天気も良く暖かいので多くのお客さんが訪れている。開店前だというのに待合室はいっぱいだ。

みんなわかってるんだなぁ…..この味を求めてやってくるのだ。

開店と同時に奥詰めで着席する。お店の中は静寂そのもの。別に私語禁止というルールはないのだが静かだ。

若き二代目店主が麺上げをする音だけが店内に響く。

何となくだが佐野実氏が厨房に立っていた時はこんな雰囲気だったのではないだろうか?

この空気感…実にいい意味で緊張している。それは客のラーメンに対する期待だろうか。

5分もしないうちに着丼!

かけらーめん大盛り+味たま

最高のビジュアル!シンプルイズベスト!かけらーめんを提供しているのは宮城県ではここだけだと思う。麺とスープに絶対の自信があるから出せるもの。

もう言葉が思いつかない。この最高の一杯を目の前にして頭が悪いから上手く説明出来ない!

私はあまり具がごちゃごちゃ入っているラーメンは好みではない。無論、お店としては全ての具が入って完成形として出しているわけでそれらがバランスを保ってるのはわかっている。それでも私はシンプルなのが好きなんだよなぁ。

食べ慣れた麺。ああ、こうやって思い出の味になっていくんだ。誰もが子供の頃に食べたラーメンって最高の味として思い出に残っていると思う。

大人になっても食べ続けたラーメンって思い出の味になるんだ。なんだかんだ言って通い詰めてから一年近くになる。二代目店主が先代店主の仕事を熱い眼差しで見つめていた時に私は大いに期待したんだよね。もうこの店は無くなるのかもしれないと思っていたから…。

舌の情報処理が追いつかない程の豊かな風味のスープ。よくぞこの味を継承したものだ。

味の継承とは難しいのだ。私は料理はしないし出来ないけど、技の継承というものは本当に難しい。

利府町の味一品が親父さんの引退で閉店したのは記憶に新しい。根強いファンが多いのだが後継者はいなかった。一時期若いのが働いていたのだが後継ぎにはならなかったのだな…。

結局味一品は伝説の店としてその幕を下ろしたのだ。

もしかしたらこの支那そばやもそうなる運命にあったのかもしれない。だが、その魂は受け継がれて現在に至る。こうして私は最高の一杯を堪能出来るのだ。

個人的な見解だがこの味たまは最高に美味い!豊かなコクと旨味はまるでスイーツだ。

お分かりだろうか?この黄身の絶妙なバランスを。外側は茹で上がった状態。真ん中にいくにつれて半熟となり真ん中はトロトロだ。白身はプリプリしてて舌の感触といいゼリーのようだ。

たった1個の卵にこんなにドラマがあるのだ。半切れにされずに丸ごと1個だから開けるまでがすごく楽しみ。

無論、日によっては仕上がり具合が違うのだがそれも楽しみのひとつだ。

気が付いたら丼は空っぽになっていた。完飲しても罪悪感のないスープ。

ふぅ…美味しかった。ただただ美味しかった。

私はラーメンを評論できるほど詳しくはないし、多くを食べているわけではない。ただ美味しいと感じたことを素直に文章に起こして記録しておきたいのだ。

何年かして読み返したらまた新鮮な気持ちになるんじゃないかな。

こんなに美味しいラーメンを食べられる人生は案外悪くないと感じた。

夜は店主さんからいただいたメンマを肴にハイボールをキメました。うめーっ!!これ何にでも合いますね!

こうしてメンマ食べてるとまたあのラーメンを食べたくなるのであった。

ごちそうさまでした~♪


関連状態

↓↓↓支那そばや石巻の公式Twitter

https://mobile.twitter.com/shinasobayaishi

【食レポ】かざみどりのシュークリーム

午後のおやつをどうするか?

それは私にとっては死活問題だ。なぜなら日曜日はあまり出歩きたくないのである。

理由は道路が混む!!人が多い!!

だって日曜日1日しか休みがないのに渋滞にハマって何時間もロスするのは…。それだったら家でのんびりしておやつでも食べながら珈琲を楽しみたいじゃないか。

というわけで支那そばや石巻さんで美味しいラーメンを食べた後はその足で石巻の日和山公園近くにある

『かざみどり』さんへ。

まずものすごい超急勾配の坂を登っていきます。

GoogleEarthより

とにかく凄い急坂!勾配率は驚異の30%である。私の21年落ち軽自動車ではやっとこ登った感じ。ちょうどタイヤの位置にだけ滑り止めになってますね。

いやぁ、ワクワクするわ。

日和山公園の方に車を停めてちょっと散策。

なかなかいい感じの桜の木がありました。

向こうに見えている橋が日和大橋ですね。昔は有料だったんだよね。

ふわァァ…なんか心が解放されていくような気がする。これぞ休日!!絶景かな絶景かな!

交通事故で怪我する前だったらトレーニングでかけ登ったかもしれないな…いい階段だ。

さて、そろそろお店に向かおう。

日和山公園から20秒歩くとあります。落ち着いたとはいえまだまだコロナは撲滅できたわけではないので必要最低限の会話で注文しますね。

今回選んだのは…カスタードといちごです。前回は【食レポ】かざみどりのシュークリームでいろいろとチョイスしましたが今回は定番のカスタードと直感でいちごを選びました。

お店を後にして帰宅してそのまま車の中でお昼寝を楽しみます。家の中よりも車の中の方が暖かいのでね。

さて、時刻は15時。おやつの時間だ。

サクサクのシューです。

蓋になってて取れるのが面白い!中にはカスタードクリームがどっちゃり!最初は蓋で掬って食べると…おいひぃ~♪甘さも程よくてブラックコーヒーに合いますね。

いちごもクリームがどっちゃり!甘さと酸味が合わさって上品な味わい…♪これは紅茶が合いそうですねぇ。結構ボリューミーで2つ食べると夕食入るかな?と思えるほどにお腹膨れました。

今度は公園のベンチで景色を見ながら食べると最高かもしれませんね!

風光明媚な景色と美味しいスイーツを買えるなんて最高に楽しい午後のドライブとなりました。

かざみどりさんのシュークリームはオススメです!

また買いに行こうっと♪

【生活】いろいろ思うことあり

ブログ連続更新68日目!

筆無精の私にとっては快挙と言えます。筆無精というか日常は書くことがほぼ何もないためにこうして記事を更新し続けることはありませんでした。

私の日常なんて誰も知りたがらないし、最低週6朝から晩まで超ド底辺労働してるわけなので真面目に書いたら愚痴しか出てこない(苦笑)

とりあえずは100日更新は頑張ってみたいところです。

別に無料ブログやSNSでもいいんじゃないか?という内容なわけですが

無料ブログだと没後でも残り続けることになる!

私の黒歴史が私亡き後も残るのがちょっとやだなって未来予想してみたわけです。人間なんて簡単に死んでしまいますからね?

SNSに関してはいろいろと人に気を使わねばなりませんし、場合によってはコメントのやり取りなども発生するわけです。

一方通行の発信をするだけなら大丈夫ではないかと思いますが例えば記事の連投をしたりするとTLが埋まってしまいフレンドリンク周りからはヒンシュクを買います。あとはそのSNSの趣向に沿った形で書くことも必要かなと思ったりもするわけで小説などの創作物が書きにくい…。

周りのユーザーとの温度差?というのかな。

「どうしてここでそんなもの書いてるんですか?」などと露骨に質問してくる人もいるので。

ならば自分好き勝手に様々なジャンルを確立出来て自由に作り替えることが出来る新世界を作ろうと思ったわけです。

まだまだわたしのやりたいことの半分はできてませんが、一応道は整備しつつあるので楽しみながら更新していこうかなと思ってます。

こういう個人的趣向の強いブログがあってもいいかなと思ってますしね。

ブログで収益!!

とかはあんまり考えてません。一応アドセンスは通りましたが元々収益が発生するくらいPVはありませんし、むしろあったらあったで怖いかもしれない。

この新世界は私の『生存日記』ですからね。消えたら死んだと思って貰えれば…。

それに莫大な収益が発生するとMMD関連が更新できなくなりますので難しくなるんですよね。

…莫大な収益?一生あるわけないので心配ご無用なんですがね…。

読めば頭が悪くなる!ような適当なブログを書いていくので今後ともよろしくお願いいたします。

【短編小説】死の狭間で

『死の狭間で』
 
 人間の平均寿命は約80年。江戸時代の人は40代で死んだというからだいぶ長寿になったものだ。

 しかし、生まれてきた人全てがその天寿を全うするとは限らない。

 病気、交通事故、自然災害と危険要因は多い。

 もし80歳まで生きることができたらそれはきっと運がいい事なのだろう。
 俺は今26年間という短い生涯を終えようとしていた。
 なぜならば、まさに今乗っている飛行機が墜落しようとしているのだ。
 運悪く交通事故に遭遇して、仕事のために予約していた新幹線の時間に間に合わなくなってしまった。ところが運良く俺の隣にいた人が空港に向かうというので便乗させてもらうことになった。
「困ってる人がいたらお互い様ね!」と屈託の無い笑顔が忘れられない。
 おまけに俺の席まで一緒に予約してくれたのだ。


 こんなにも良い人が世の中にいたのかと俺は感激していたのだが…まさか乗った飛行機が墜落するなんて信じられない!
 とりあえず遺書を書こうとペンと紙を取り出す。揺れる機体で書くのは困難だったが、それよりも困難だったのは誰宛に書くかだ。
 両親は俺を捨ててペルーだかチリだかに移住したのだ。理由は知らないがとにかく捨てられたのだ。だから児童養護施設で育ったのだが、極度な人間不信に陥っていたために友達なんてできた試しもない。
 彼女はいたが、3日前に別れたばかりだった。
「あんたなんか死ねばいいのに!」と吐き捨てられた。あれはたまたま冷蔵庫にあったプリンを食べただけだ。
 それなのに彼女はまるでキングコングのように怒り、ヨガで鍛えられた張り手が俺の頬に炸裂したのだ。
 俺は首を負傷し、奥歯を損失した上に彼女からはゴキブリでもこんな酷いことは言われないだろうという罵詈雑言を浴びせられ家を追い出されたのだ。
 ちょうど海外出張という事も重なりジンバブエで羽を伸ばそうと考えていたのだが…。

 結局、遺書を書くのはやめた。機体は徐々に高度を下げて大きく揺れ、その度に大きな悲鳴が上がった。

「あのー、すいません。」
 隣の席から黒いスーツを着た男が声をかけてくる。綺麗に分けた七三と丸眼鏡といういかにも日本のビジネスマンといった風体だ。
「なんですか?この忙しい時に!」
 俺はやや乱暴に言い放つと男は懐から名刺を1枚取り出した。
 その名刺には少し変わった肩書きが書かれていた。

『1級死後転生相談士 黒井太郎』

「何ですか、これは?」
「いや~、私はその~死神でございましてあなた様は死後についてどうされたいのかな~って思いましてね。どうですか?ここは一つ私に任せてみては?」

「あのさ、今の状況わかってる?もう俺達死ぬんだぜ?」

「ええ、だからこそ死後について今の内に手続きを済ませておいた方が宜しいかと思います。死んでからですとなかなか手続きに時間がかかるのですよ。それで転生が遅れてしまい、本人が希望されないものに強制転生されてしまう事が多々あるんです。不浄化されても困りますしねぇ」
「こんな時に冗談もよしてくれよ!死ぬ間際にこんな話して人生を終えるのが1番悲しいわ!!」
 俺は鼻息を荒くして黒井の話を無視する事に決めた。せめて人生最後の瞬間くらい有意義な時間を過ごしたい。
 
「あなた様は今とてつもなく運が悪いと思ってますか?それはそうでしょう!こんな飛行機に乗ったばかりに死ぬことになるのですから。しかし、あなた様はここで死ぬ運命になっていたのです。気が付きませんでしたか?度重なる奇跡的な偶然の出来事でわざわざこの飛行機に乗って来られたのです。あなた様の足で」
 黒井は膝を叩き軽快な音を出す。そして俺に顔を近付ける。

「あなたはとても運が良いのです。生きてる内に次の転生先を自ら決める事が出来るのです。そのお手伝いをするのが私の役目です。ええ、お代は格安にサービス致しますのでご安心下さい」
 黒井は真っ白な歯を見せると歯の隙間から息を漏らし笑った。

「わかった…どうせなら綺麗な女性と手を繋いで逝きたかったけどさ。隣はあんただし、反対の席は爺さんときたもんだ。俺もつくづく運が良くないらしい」
 黒井は「まあまあ 」と言いながらバッグから1枚の紙を取り出す。
「これがあなたの転生リストになります。人気の転生先が記載されてますので強い希望が無ければこちらから選んでいただきますが?」
 リストには蝉を始めとして様々な生き物が記載されていた。
「蝉、クラゲ、ナマケモノ、ナマコ…なんだ?ろくなものがないじゃないか!?人間は無いのか?」
 俺は憤慨しながら黒井に紙を叩きつけた。

「人間は今のあなたの魂では無理なんですよ。人間になるには魂の徳を重ねないとダメなんです」
 丸眼鏡を上げると口元を歪ませ笑みを浮かべる。

「徳だと?俺は今まで犯罪も犯したことは無いし募金もしてる。一人で会社を立ち上げ今じゃたくさんの従業員を養っているんだ。徳ならそこらへんの奴らよりもあるはずだが?」
「あくまで人間の立場としてですね?」
「どういう事だ?」
「あなたの主観なんですよ。徳というものはそういうあなたが思っている善行だけを指すものではないのです。説明すると長くなるので割愛させていただきますが、現時点で選べるのはこのリストにあるだけとなります」
 
 納得のいく説明を聞きたかったが墜落まで10分とかからないだろう。
 最後の時間をこんな冗談で終えることになろうとは…落胆する俺を尻目に新たに紙を差し出す。
 
「ではこうしましょう!まずあなたはこの蝉になるんです。蝉は大変人気がありますが回転が早いので空き枠もあります。生涯の半分以上を土の中で過ごすために徳を貯める事ができるんです!」
「ほう、それで次は人間になれるのか?」
「なれますとも!でも蝉の生活を一度体験致しますと再び蝉になりたいと申し出る方が多数ですがね~」
「まぁ、人間みたいにあくせく働く必要もないしな…そうだな、蝉になってみるのもいいかもしれない」
「では、決定ですね!ではこの契約書に判子を…いや拇印で構いません。」
 差し出された契約書に拇印を押そうとするとそこには目を疑う事が書かれていた。
 
『私の全財産を寄付致します。』
 
「おい!これはどういうわけだ!全財産を寄付だと!?出来るわけがないだろう!!」
 俺は思わず怒号を上げると黒井は眉間にシワを寄せ睨みつける。
「これが徳なんですよ。せめて最後にこれ程の徳を積んで、蝉になって貯めておけば人間に転生する事は容易いのです。あなたの善行はいわゆる自己満足に過ぎないのです。あなた自身が気持ちよくなるためにしている事に過ぎないのです。徳を積むということは自己を犠牲にして困っている者を救う事にあるのです。あなたの寄付金は恵まれない子供たちのために使われます。もちろん一部は報酬としてもいただきますがね」
 黒井は戸惑い目が泳いでいる俺をジッと睨み契約を促す。
 
「あなたの財産を狙っている方がいるんじゃないですか?でもその方はあなたを必要とはしていない。あなたが持つお金だけに興味があるのです。あなたが亡くなった後は必然的にその方のものとなるでしょうね。果たして有効に使われるでしょうか?」
 俺は3日前に別れた彼女の事を思い出していた。ゴキブリ以下だと罵倒され家を追い出された屈辱…!
 別れたといってもそれはただの言葉だ。俺の死後に彼女が財産を奪い取るのは簡単だった。家を追い出された時に実印を置いてきた事を思い出したのだ。
「あんな奴に渡すくらいならもっと有効に使ってほしい!これで俺の徳は増えるんだな!!」
「ええ!それはもう!」
 黒井は満面の笑みで両手を叩く。俺は多少戸惑いながらも拇印を押した。

「確かにこれで承りました。では今度はこちらの薬を飲んで下さい。」
「なんだ?これは?」
「水が無くても飲めますよ。これは飲むと気持ちよく死ぬことが出来ます。苦痛もなく、恐怖もありません。まさに眠るように逝く事が可能なんです。さすがに墜落の衝撃で激痛にのたうち回ってから死ぬのでは嫌でしょう?」
 黒井の言葉に頷くと薬を迷いなく口に放り込んだ。
 すると体の力が抜けて気持ちよくなってきた。まさに空を飛ぶような気持ちよさだ。
 
 
 黒井が差し出した薬を飲むと男は深い眠りについた。永遠に目が覚める事はないだろう。

………

 黒井はやれやれと溜息をつくと男の手から契約書を取る。そして、埃を払うようにすると契約書の文字が消えて下から遺言状の文字が現れた。
「私の役目はここまで。あとは『あちらの死神』に任せるとしましょうか。この世にはまだまだ迷える魂が存在してますからねぇ」
 黒井は丸眼鏡を拭きながら“奇跡的”に着陸に成功した飛行機を降りた。


あとがき

これは『デス・ドアーズ』で使用しようと思ったエピソードでしたが飛行機の中ということで少し物語の組み立てが難しいと判断してボツにしたものです。

それを主要人物を差し替えて黒井太郎という『死のセールスマン』を登場させました。

デス・ドアーズ自体はまだそんなに話は進んでいないのですが、この黒井太郎は死神という属性ではないんですよね。若干本編にも関わってくるのですが、死後のことや転生を促す死のセールスマンの働きとはどんなものなのかはまだ謎のままにしておきましょう。