9.魔女狩り

クリスの体から光の粒が上がり形を失っていく。

「なかなかの手練れ…不浄にしておくには惜しいが仕方あるまい」
死神がクリスに歩み寄るとクリスの体が光の粒となり消える。

「な、なんだ!?」
空中に舞い上がった光の粒が人の形に変化していく。
それは徐々に鮮明な輪郭になっていく。倒したはずの不浄が再び蘇るなど初めての体験だった。

「い、一体何が!?」
死神は大鎌を構える。光が収まると先程倒したはずのクリスが現れた。
だがその姿は明らかに変貌していた。腰まで垂れ下がる銀髪に対して前頭部から死神のように二本の毛束が立ち上がっていた。
目をゆっくり開く。その瞳は蒼く妖しい光を放っていた。
そして笑みを浮かべる。体を回転させると一瞬にして洋服がゴスロリ風の衣装へとすり変わった。

「おーほっほっほっ!さすがは戦い慣れている死神ですわね☆ですがわたくしには到底敵わないようですわ☆」
クリスは高らかに笑い左手を振ると何もない空間から一冊の本を出す。

「き、貴様!?何者だ!!」

「すぐに消滅するあなたには必要ないと思いますがせめて供養のために教えて差し上げますわ☆わたくしはクリスティーヌ・トリドール…妖の蒼月(あやかしのあおつき)とも呼ばれてますわね☆かつてのわたくしの残留思念とはいえかなり窮屈な体でしたわ☆すっかり体が凝り固まって…」

「妖の蒼月…貴様が…あの…伝説の魔女ッッッ!?」
死神の大鎌を持つ手が震えている。
「こいつは大手柄になりそうだ!」
大鎌に変化している死神カラスが声を上げた。
「大手柄…?」
「左様、こやつはルシファー様が血眼で追っている者だ!こやつを倒しその亡骸を献上すれば我々は一気に出世できるぞ!」
「出世っ…!」
「そうだ。さすればお前の望みも叶い現世に帰ることも可能だ」
「現世へ…」
死神の大鎌を持つ手に力が入る。
「さぁ!奴を倒すぞ!」
「御意!!」
死神は大鎌を構えた。

「さぁ、かかってらっしゃい☆少しだけ遊んで差し上げますわ☆準備運動にもならないでしょうけど」
クリスは手招きする。

「なめるなーっ!!」
死神が咄嗟に飛びかかり大鎌をクリスに叩きつけた。
「やった!…な、なんだと!?」
だがまるで硬い鉄の柱を叩いたように大鎌は止まる。
「ぐっ…」
死神の大鎌はクリスの指で止められていた。死神の両腕はその衝撃で痺れ震えている。

「バ、バカな…我が死神の大鎌を受け止めるなどと…」
「やはりまだまだ未熟ですわね☆」
クリスは左手に持っている魔導書を開く。右手人差し指で文字を描きながら詠唱を始める。徐々にその魔法陣が形作られ光を放っていく。
「あなたにはこの魔法を差し上げますわ☆」
すると指先からビー玉程の小さな炎の塊が放たれる。
炎の塊はゆっくりと死神に近付く。

「こんな小さな炎など…うっ!!」
死神が炎を払おうとすると一気に膨れ上がり体全体を包み込んだ。
「ぐわあおおおおーっ!!!」
「ほほほ☆火葬になって一石二鳥ですわね☆」
その炎はたちまち死神の肉を焼き尽くし骨すらも灰にした。

大鎌から変化を解き死神カラスが慌てて飛び立つ。

「逃がしませんわ☆」
クリスの指先から一筋の閃光が放たれカラスを貫いた。一瞬にして死神カラスの体は木っ端微塵になりガラス玉のような魂が床に落ちた。

「死神の本体はカラスなのもお見通しですわ☆」
クリスは死神の魂を拾うと右手の中に取り込んだ。

「この程度の魂ではまだまだ満足できませんわね☆ほほほ…」