10.魔女狩り

「うぅ…」
シュクレンの目の前には妖しく光る刃があった。これから何が起きるのは容易に想像できた。それは今まで自分がしてきたことだ。
恐怖というものは小さな穴のようなものでも一気に広がり体の中を支配する。
自ずと体が小刻みに震え始める。

「あ…」
見上げると死神が鎌を構えて見下ろしていた。その目は冷たくピクリとも動かずにシュクレンを凝視していた。

「わ、私…死神…」
シュクレンが震える声で訴える。
しかし死神は眉一つ動かすことなく一切表情を変えなかった。

「死神ならなぜ共に戦わん?嘘を言うな」
「あ…ぅ…」
言葉が喉元につっかえて出てこない。こういう場合はどう説明したら良いものが答えが出てこなかった。確実に思うことはこれから自分はこの大鎌で斬られてしまうことだ。

「不浄の魂め!」
死神が大鎌を振り上げると閃光が迸り両腕が一瞬にして消失した。大鎌が無造作に床に落ちる。

「う…がぁっ!ああああああああぁぁぁ!!」
死神の両腕から真っ赤な血が噴出する。

「ごめんあそばせ☆手が滑りましたわ☆」
廊下の奥からクリスが現れた。

「ク…リス?」
シュクレンはクリスの変貌ぶりに驚いた。一瞬だけ視線をシュクレンに向け死神に向かって歩みを進める。
「ひ…ひぃぁ…」
死神は跪き意識が混濁している。床に落ちた大鎌の変化を解いて死神カラスが逃げようとするもクリスは指先から放った閃光で焼き尽くした。
跪いてる死神にクリスが歩み寄る。

「痛いでしょ?楽にしてあげますわ☆」
死神の額に指を当てる。
左手の魔導書を開き呪文を詠唱すると死神の頭が一瞬だけ大きく膨らむと木っ端微塵に吹っ飛んだ。
頭を失った体が床に倒れると光の粒になりガラス玉のような魂だけが残った。
クリスはそれを拾うと右手の中へと取り込んだ。

「ク、クリス…」
「あなた、さっき自分のことを死神と言いましたわね?」
シュクレンに詰め寄る。

「うぅ…」
「死神は一切残らず排除しなければならないのですわ☆あなたが死神ならば…パンッ☆」とシュクレンの額を指で突っつく。

「ひっ!!」
シュクレンの肩がビクンと跳ねる。
「ふふ、あなたは生かしておいた方がこれから何かと使えるかもしれませんわ。ここは特別に逃がしてあげますわ」
クリスはシュクレンの腕を掴むと信じられない怪力で体を振り起こした。

「…クリス…?」
「わたくしは魔女…クリスティーヌ・トリドール…妖の蒼月とも呼ばれてますわ☆」

「クリスが…あの伝説の魔女?」

「あなたが死神だとわたくしは知っておりましたわ。その髪色、瞳の色…死神クロウの従者であることは間違いないですわね?」
クリスは不敵に笑みを浮かべる。
「クロウが現れなかったのはわたくしに会いたくなかったか、或いはまだタイミングを図っているようですわね。いずれにしても今のあなたの力ではクロウといえどダン国王と対等に戦うことは出来ませんわ。今は逃げるのが得策。どこかに身を潜めて全ての片がつくまでじっとしてるといいのですわ」

「…クリスは…なんで死神を狙うの?」
シュクレンの問いにクリスは一瞬戸惑いを見せた。

「あなたがそれを知ってどうするというのかしら?死神の立場としてわたくしと戦うとでも?あなたごときの力ではわたくしの指先一つでさえも傷付けることは出来ませんわ」
「…戦うことはできない」
「ならわたくしの言う通りにしなさい!早く安全な場所に隠れておしまいなさい!」
「…あの」
「なんですの?」
「…どうしてクロウを知っているの?クロウもあなたを知っていた…」
一瞬二人の間に沈黙が訪れたがクリスが小さくため息をついた。