8.魔女狩り

 シュクレンは無我夢中で通路を走る。
「クロウ…どこ!?」
 窓の外には無数のカラスが飛び交っているがどれがクロウかわからない。
「どうして来てくれないの…」
 城の出口を目指して走るが方向が合っているのかさえわからない。後ろを振り向くがクリスが追いついてくる気配もない。死神が相手では無事で済まないことはシュクレンは知っている。

「待て!絶対に逃がさんぞ!」
 曲がり角で遭遇した兵が一人立ちふさがる。
「う…」
 シュクレンは立ち止まると他に逃げ道はないか周りを見る。窓を開けてみようと試みるがビクともしない。

「逃がしはしないぞ!大人しくしてるんだ!」
 兵がにじり寄ってくる。その手には剣が握られ今にも鞘から出す勢いだ。
 シュクレンは隙を見て脇をくぐり抜けようとしたが髪を掴まれる。

「うぁっ!?離して…!」
 そのまま押さえられ無造作に引っ張り回され幾本かの髪の毛が抜けた。床に押し付けられて体重がのしかかる。胸が圧迫されて息が出来ない。

「大人しくしろっ!!」
 兵はシュクレンの腕を縛ろうとする。しかしシュクレンが暴れ上手く縛れない事に苛ついていた。

「この小娘が!静かにしろっ!」
 シュクレンの後頭部を殴る。一度二度三度と立て続けに殴る。
 その度に目の前にフラッシュが焚かれように点滅すると視界がぼやけてきた。

「あ…ぅ…」
 意識が混濁し動けなくなった。

「ふふ…よーし、そのまま寝てろ」
 うつ伏せに倒れているシュクレンの体を仰向けにすると胸元の衣服を剥ぎ取ろうとする。
「俺だってずっと我慢してるんだ…久しぶりに女の味を求めたって罰は無いだろう!」
「うぅ…」
 徐々に意識が戻り兵の腕を掴む。
 しかし、その力は強く制止することは敵わない。
「ぐ…おとなしくしやがれ!じっとしてればすぐに終わるからよ」
 抵抗虚しく胸元の衣服が破かれ素肌が露わになると兵は顔を押し付けた。
 体の中から言い様のないドロドロした気持ち悪さが膨らみ口の中から吐き気をもよおして吐き出しそうになった。

 この気持ち悪さは以前にも経験したことがあるような気がした。
 怒りや憎悪が胸の中で渦巻いている。
 これは嫌だと強く感じた。
「い、やぁーっ!!」
 兵の腕を噛みつく。
「ぐわぁ!!ち、ちくしょうめぇ!!捕らえるだけにしようかと思ったがぶっ殺してやる!!」
 激昂した兵は拳を振り上げる。シュクレンは恐怖のあまり目を瞑った。
 その時血飛沫と共に兵の眉間から後頭部に大鎌の刃が突き抜けた。

「が…は…」
 兵の目が反転し痙攣しながら仰向けに倒れて魂になった。
 目の前には大鎌を引き抜いた少女が立っていた。

「し、死神…」

 少女はその魂を拾うと袋に詰める。
 そして倒れてるシュクレンに大鎌を突き立てた。ぬらぬらと光る刃に恐怖で引き攣った自分の顔が見えた。