6.魔女狩り

「妖の蒼月の体には黒の書による呪文が刻まれているという。お前は魔女ではないな?」
女は震えながらもホッとしたような表情をする。ダン国王の両手が女の肩を掴む。口を大きく開けると鋭い牙が存在していた。
「いやぁぁぁ!!」
牙で女の頸動脈を食いちぎった。

「ぎゃあぁぁぁっ!」
女の断末魔の叫びが部屋に響く。ダン国王は女の首から溢れる血を飲み込んでいた。
「な…なんで血を…吸っているの…!?」
クリスは震えながらその惨状を見つめていた。

「次!」
血の一滴も出なくなった女の遺体を無造作に床に放り投げる。女の肌は真っ白になり人形のように見えた。

「狂ってる…こんなの…!」
クリスを見るとうつむいて目を瞑っていた。
「…クリス」
「シュクレン…ごめんね…私のせいで…こんな…」
クリスは目を開けずに言った。

「…クリス…逃げよう」
「逃げられない!どうやって逃げるの?もうどうしようもないのよ!私達は死ぬのだわ!死にたくない!」
クリスは静かに声を荒げる。パニックを起こしてるように頭を掻きむしっていた。
「…クリス…助かる方法は…」
シュクレンが窓の外を見ると無数のカラスが空を飛び交い一斉に鳴き出した。

「次!」
口の周りを血で染め二人目の女をまたも無造作に床に放り投げる。三人目の女が立ち上がった時右手を上げる。
ガラスが割れてカラスが飛び込んできた。その女の右手にカラスが止まり黒い光を放つ。
カラスは女の右手に留まると大鎌に変化し裸だった女は黒い衣を纏っていた。

「死神…!?」
シュクレンは外を見るがどれがクロウかわからない。
すると他の女達も右手を上げる。
次々にカラスが飛び込んできて女達を死神の姿に変えた。

「シュクレン!今の内に逃げるのよ!!」
先程まで怯えていたクリスが立ち上がる。
「う、うん…」
シュクレンもよろめきながら立ち上がり走り出した。

ダン国王の前に三人の死神が立っていた。
「なんの真似だ?」
ダン国王が服を正し立ち上がる。
死神三人は大鎌を構え臨戦態勢を取る。
次々に兵が現れ三人の周りをとり囲む。その人数は二十人に達した。

「やってしまえ!」
ダン国王の命令で兵達が一斉に死神に斬りかかる。
しかし、死神の一撃で胴体が2つに切り裂かれた。それは光の粒になりガラス玉のような魂になる。
死神三人は全て一撃で兵達を葬っていき、たった三人で二十名の兵を倒したのだ。

そして死神の一人がダン国王に大鎌を向ける。
「貴様ら!何者だ!?」
ダン国王は怒りで声が震えていた。
「我らは死神だ…お前の魂を回収しに来た」
「回収…だと?」
「そうだ。お前は最も危険な不浄の魂…総力戦にてお前を始末しろとルシファー様より仰せつかったのだ!」

「くっくっくっ…そのような華奢な体で何ができる!幾多の魔女の血を吸った俺の敵ではないわ!!」
ダン国王が地面を蹴り飛び出す。

死神が鎌を振るより先に顔面を掴み床に叩き伏せた。
あまりの衝撃に頭部が割れ脳髄が飛び出した。
標的は二人目の死神に向かう。

「くっ…!」
死神は後退するがそれより先に踏み込む。
「るおぉぉぉぉっ!!」
ダン国王の拳が死神の顔面を捉えた。
頭蓋骨が砕ける音が響き後方に吹き飛んだ。
三人目の死神が背後から斬りかかる。

「カァッ!!」
降りかかる大鎌を両手で掴む。

「バ、バカな!?」

鎌を力づくで奪うとガラ空きになった胸に前蹴りを叩き込んだ。肋骨が粉々になり口から血が噴き出し壁へ激突し前へふらつく。

「はははは!!」
ダン国王は奪った大鎌を死神の脳天に叩きつけた。
脳天から腹まで斬り裂かれ死神は倒れた。

倒れた死神三人はガラス玉のような魂になる。
大鎌から変化を解いたカラスは慌てて窓から飛び去っていった。

「死神か…!」
ダン国王は床に転がる魂を拾い上げ口に含み噛み砕いた。
「ぬぉっ!?」
魂を飲み込んだ直後に体の内側から底知れぬ力が湧き上がってきた。