5.魔女狩り

「それでは仕方がありませんな。戻りましょうか」
クリスは引き返そうとする。
「待て!ちょっとおかしい。顔を見せろ!」
兵士がクリスの布を引っ張る。
「はっ!」
その直後にクリスが手の平で兵士の頭を抑えると糸が切れた人形のように倒れた。

「なっ!?お前何者だ!」
他の兵士が剣を抜き構える。
「はぁっ!!」
それよりもクリスが素早い動きで兵士の腹部を両手で叩く。
「ぐはぁっ!」
兵士の体が“く”の字に曲がると吹き飛ばされ地面に倒れると動きを止めた。
「シュクレン!今の内にこの扉から出るのよ!」
クリスが国境の扉を開けようとするが開かない。
「うぐ…ど、どうして!?開かないの!?鍵…!?」
扉には鍵がかかっていたのだ。
「ネズミがここにもいたか!」
声がする方を振り向くと金髪を後ろに束ねた女剣士が立っていた。

「私の名はセルビア。国王様の命令によりお前達を捕らえる」
セルビアは青い瞳から鋭い眼光を放っていた。シュクレンは思わず目を逸らしクリスの後ろに身を隠した。
「鍵なら私が持っている。その扉を開けたいのならば力ずくで私から奪えばいい」
「そうさせてもらうわ!」
クリスがセルビアの腕を掴み捻り上げようとするが素早く身を翻しお互いの体がぶつかった。
「ふふ、ある程度武術を会得しているようだ。だが、私には勝てない!!」
セルビアの懐に飛び込むと両手に力を込める。それを腹部に叩きつけようとしたがセルビアは素早くクリスの横へ回り込んだ。
「はぁ!!」
セルビアの手刀がクリスの首の裏を叩くと意識を失い倒れた。
「クリス!?」
シュクレンがすぐに駆け寄るが兵に取り押さえられ手足を縛られた。

二人は城へと運ばれる。その様子をクロウは眺めていた。
「上手くやりやがったな…それにしてもアイツは…」

シュクレンとクリスは他に捕まった女達と一緒に城の中の前に連れていかれた。
「セルビア、随分お手柄ですねぇ。どうやらこの中には本物の魔女がいるかもしれませんよ」
ケイズは髭を弄りながら女達を舐め回すように見ていた。
「どうかな。少なくとも一人は兵をねじ伏せる体術を持っているが魔力というのは…」
セルビアはクリスを見る。
「東洋にはカラテというものがあるそうじゃないですか。本物の魔女がいればダン国王の力は益々増大し、この世界の歪みを正し我々を救ってくれるのです。ではこの者達をダン国王に献上しなさい!」
ケイズはセルビアに指示をすると立ち去っていった。
「は!直ちに!」
セルビアは兵達に指示をし女達を強引に引っ張り出す。

女達は恐怖で怯えて泣き叫ぶ者がいる中で諦めたのか、表情一つ変えない女達もいた。

絢爛豪華な調度品が並ぶ通路を通り、大きな扉の前に立つ。
そして脇に立っている兵にセルビアが何かを喋る。
すると兵は頷いて二人がかりで大きな扉を開ける。

広大な部屋で中心には玉座があり、巨躯の男が座っていた。

「ダン国王!魔女8人連れて参りました!」
セルビアが直立不動で声を張り上げる。

「よくやった。下がれ!」
ダン国王は野太い声で静かに喋る。
金髪に切れ長のつり目で30代半ばといった容姿だ。
その肉体は徹底的に鍛え上げられており筋骨隆々だった。

「はっ!」
セルビアが一瞬女達を見ると部屋を出た。その直後に扉が閉められる。

ダン国王が立ち上がる。その背丈は2m程に達していた。

「女共の服を脱がせろ!」
兵達がナイフを使い女達の衣服を剥ぎ取る。
「お前だ。来い!」
ダン国王は一人の女に手招きをする。女は不安げな表情を浮かべると震えながら歩きダン国王の前へ出た。