「がっ…ぺ…?」
突然頭から何かが叩きつけられゲゼルの頭部が激しく歪んだ。
少女が振り下ろしたハンマーがゲゼルの頭に落ちていた。
「うぎゃあああぁ!いでぇ!いでぇーっ!」
ゲゼルが緑色の血を吐き悶絶しながらのたうち回る。
少女は糸を引きちぎりゲゼルに近付きしゃがむと冷たい視線を送る。金色に光るその目は猫のように瞳孔が縦長に絞られた。
「痛いか…?」
クククと目が動きゲゼルの表情を覗き込む。
「いでぇぇぇぇ…」
ゲゼルは緑色の血を吐き出している。もはや戦闘不能に陥っていた。
「苦しいか…?」
「あ…ああ…苦…しい…助け…て…」
ゲゼルがそう言うと少女は何も言わずに立ち上がる。
「シャアアアァ!!」
次の瞬間ゲゼルは至近距離から足を突き出す。
だが少女はそれよりも速く身を捻りかわした。
「ぐぅ…この距離で!?」
「痛みも苦しみも…ワタシには無い感覚だ」
「ひ…ひぃぃぃぃっ!?」
少女は無表情のままハンマーを再びゲゼルに叩き落とす。
「ぐべぇっ!?」
胴体がひしゃげ緑色の血が噴き出し内臓が飛び出したが少女は顔色一つ変えない。
「痛いか…?」
少女はもう一度確認するように訊く。
「痛い…です!」
ゲゼルは声を絞り出すように震えながら言う。
「苦しいか…?」
「く、苦しいです!た、助けて…お願い!!」
再び少女の猫のような瞳がゲゼルを凝視する。ゲゼルは既に戦意を失い怯えていた。
「ワタシには…痛みも苦しみも…無い。黒に包まれた黒の死神…」
少女の手から黒い光がハンマーに伝わるとゲゼルの体躯を超える大きさに変化した。
「ひ…ひぃぃぃっ!!」
「お前は…狡い」
ハンマーを振り下ろしゲゼルを覆い潰した。少女の手からハンマーが抜け落ちてカラスが飛び立つ。
ゲゼルの魂は肉体共々粉々に砕けていた。
「よくやった!我が見込んだ通りだ!お前はこのデスドアで最強のソウルイーターになれる!!」
少女はゲゼルの糸に包まれていた少年を取り出そうとするが、そこに少年の姿はなかった。
「……」
「お前の弟の魂はこのデスドアのどこかにある。見つけ出し救うのだ」
「このデスドア…魂…弟?」
少女は抑揚の無い声で呟いた。
「カカカ、どうやら必要以上に記憶を消してしまったようだな…まぁいい!お前の名は『ロウファ』だ!この最強の死神ブラック様に就くソウルイーターロウファだ!黒の死神だ!!」
「…ロウファ」
周りの景色が砂のように崩れ去り青空も闇に溶けていき瓦礫と闇が辺りに広がっていった。
「よし、ロウファ!我について来い!我が主様にご挨拶に向かおうではないか。ついてこい!」
「お姉ちゃん…か」
ロウファは少年の声を思い出そうとするが徐々にその記憶は薄れていった。