「クロウ、わたくしとの決着はまだまだつきそうにありませんわね?」
「もうお前と戦うことは無い。お前は俺様よりもずっと遥か遠くに行ってしまった存在だ。今更どうすることもできないだろう」
「さぁ、どうかしらね?」
クリスとクロウは見つめあった。そしてクリスは踵を返し歩き始める。
「クリス!」
クロウが呼び止めるとクリスは振り向き笑みを浮かべる。
「何かしら?また小言でも?」
「いや、あのな。気を付けろよ。お前も…」
「あら?心配には及びませんわ☆例えソウルイーターが束になってかかってきたとしても敵ではありませんもの。クロウもまた会う時まで元気でいますのよ?次に会うのはいつになるかわかりませんが…」
「ふん、言ってろ!」
城が完全に砂となり崩れ落ちると同時にクリスは暗闇の中へ消えていった。
シュクレンはその後ろ姿を見送ると力なくその場へ座り込んだ。
「…ふぅ…終わった」
「ああ、あいつがいなかったら今頃全滅していたぜ。恐ろしい化け物だった」
「…クリス、クロウと話せて嬉しそうだった」
「あん?あいつがか!?」
「…うん」
シュクレンはクリスが最後に見せた笑顔を思い出していた。
「…どうして、笑ったのかな?」
「さぁな、あいつは昔からあんな感じだ。ワガママで傲慢でな。扱いづらい従者だったぜ!」
「…どうして、従者辞めたの?」
シュクレンが尋ねるとクロウは少し考えていた。
「正確に言うと辞めたんじゃねぇんだ。役目を果たし従者を卒業した。お前たち従者は永遠に俺達死神に仕えてるわけじゃねぇんだ。使用期限があるんだよ。魂をすり減らし続けてりゃ疲弊してくるだろ」
「…じゃ、私もいつかは?」
「そうだな。不浄にやられなきゃいつかは従者を卒業できるってこった。だがそいつはほんのひと握りだ。このデスドアじゃ弱けりゃ消える運命にあるからな」
シュクレンはふと考えていた。死神ではなくなったら自分はどうなってしまうのだろうと。自分はこうしてずっとクロウと魂を狩る死神をしているものだと感じていたのだ。
「まあ、お前が俺様から卒業するのはいつになるかはわからんが、一つ一つの仕事を大切にこなしていくこった。その内お前が探している答えが見つかるかもしれないしな」
「…うん」
クロウは辺りをキョロキョロと何かを探し出した。
「ところでお前魂を回収したか?一つも転がっちゃいねーぞ?」
「…あれ?そういえば…」
シュクレンは立ち上がりダン国王が倒れていた場所に向かうが魂はどこにもない。
それどころかセルビアの魂も他の死神の魂も一つも無い。
「さては…あの超高齢ババアめが…やりやがったな!」
クロウは怒りで翼を震わせる。クリスがいつの間にか全て魂を持ち去っていたのだ。
「…償いって…」
「くっそーっ!こんなにきつい仕事したのにただ働きかよ!!あんの泥棒猫めっ!!ちくしょーっ!!今度会ったら絶対にボッコボコにしてやろうぜ!なあ、シュクレン!!」
クロウの怒りの声はデスドアの暗闇に吸い込まれていった。
「ほーっほっほっほ☆クロウったら今頃吠えていますわね☆これらの魂はわたくしの野望のために有効に活用させていただきますわ☆特にこの魂はとても活きがよくて使えそうですわ☆」
クリスの手の中にはロウファの魂が一際明るく輝いていた。
荒廃した廃墟に佇む少女がいた。
沈みかけた夕陽が少女の白い髪を紅く照らしている。
「ルシファー様」
白ずくめの従者が声をかけるとルシファーは翡翠色の瞳を向ける。
「ブラックからの報告です!妖の蒼月がC8地点で確認されました!」
「ほう…それで?」
「ハンター及びソウルイーターが抗戦するも1組を残し全滅した模様です」
「その1組とは?」
「クロウです!」
「そうですか。クロウが逃げたのは懸命な判断でしたね。ですが、このままあの魔女を野放しにしておくことはできません。次は必ず討伐できる死神を向かわせます。追跡を続けなさい」
「は!」
ルシファーは夕陽を見つめて目を細めた。
終わり