廊下を壁にぶつかりながら走って進む。
「…階段は…」
すると突然後ろから重いものがぶつかり床に伏せられた。さっきの女生徒達だ。
「あんたよく友達もいない学校に来れるわね?」
「貧乏人のくせに!」
シュクレンの背中に煙草の火が押し付けられる。
「あああああっ!?」
悲鳴を上げるシュクレンを見て女生徒達は笑い転げる。
「死ね!バァーカ!」
黒板消しで顔を叩かれる。目の前が真っ白になり強烈な痛みが目と喉を襲う。
「やめ…ゲホッ…コホッ!うぁ…」
シュクレンは無理矢理体を捻り女生徒を跳ね飛ばした。すぐに身を起こすと目の前に階段を見つけた。
「嫌っ!嫌っ!」
階段を駆け上がる。
「今度は鬼ごっこ?」
階段を上がった先に女生徒が待ち構えていた。
その誰もが卑屈に歪んだ笑みを浮かべていた。
「た、助け…」
その言葉はシュクレンの言葉ではなかった。
無意識に加奈の心にリンクしていた。
「じゃーね!」
両手で突き飛ばされて階段を転げ落ちる。激しい衝撃が全身に響く。一度二度三度鈍い音と衝撃が全身に響く。口の中に血の味が広がり鼻の中が猛烈に熱くなる。
眩しい光が一瞬目の前に広がると床に突っ伏していた。
耳鳴りの向こうで笑い声が聞こえた。
「な、ぜ、わ、ら、う?」
徐々に意識が鮮明になり床から顔を起こす。
「あ…」
赤い鮮血が床に広がる。後頭部から熱い血が流れていく。力が入らない。腕や足は折れて妙な方向に曲がっていた。手首は力なくぶら下がっていた。
「ねぇ!どうしたの!?大丈夫!?大変!!」
さっきの女生徒達が態度を急変させてシュクレンの体を揺さぶる。
「たぶん足を滑らせたと思います!」
「可哀想に…」
「救急車呼ばなきゃ!」
「その前に髪を切っててあげるね」
髪を掴まれて顔を上げさせられる。
「ねぇ?酷いと思わない?こんなことされてたの…とても痛かった…辛かった…孤独だったの」
加奈が不気味な笑みを浮かべていた。そしてその手には切られた三つ編みの髪を持っていた。
「あたし苛められるためにこの学校に入学したんじゃないの…。自信が欲しかった。あたしのことで喧嘩してる両親にあたしの存在価値を知らしめたかった。あたしはもっと!普通に愛されたかった!!普通に友達が欲しかった!普通の学生生活を送りたかっただけなのに…!それなのに…っ!」
「…加奈…」
「シュクレンならわかってくれるよね?あたしとあなたは同じ…同じような感じがするの。だからあなたとはいい友達になれると思ってた。でもあなたも今までにきた人達と一緒!!あなたも他の死神と一緒だわ!!」
「…他の…死神?」
加奈は刃物と化した手を窓の外に向ける。
「あたしのコレクションよ」
その方向を見ると先程の中庭の木が見えた。
そこには何体かのカラスと死神と思しき少女達の亡骸が吊るされていた。
「…ああ…」
加奈は既に何度も死神と戦っていたのだ。用意周到にシュクレンを校舎の奥に誘導しクロウと引き離したのだ。
校舎に入った時点から既に加奈の術中に嵌っていた。
「う…あ…」
シュクレンの中に初めて不安と恐怖が襲ってきた。
一瞬体の中に冷たい感覚が走り吐き気をもよおす。クロウという信頼出来る絶対的な主がいたから戦えてきた。しかし、ここにはクロウが入って来れないのだ。
シュクレンはクロウなくして死神の力は発揮出来ない。