6.学校

「あたしへの虐めはなかった事になった。不慮の事故で大怪我をした事になったの。由緒正しき進学校でイジメなんてあってならない事だったから!学校も必死に隠蔽工作したみたい。もちろんあたしを虐めた生徒達は罪に問われる事はなかった…今でも平然と生きてるのだわ。そして普通に友達を作って普通に恋人を作って普通に結婚して家族を作るの。普通の幸せを得て普通の人生を歩んでいくのよ」
髪を引っ張り強引に顔を上げる。
「あぅ…」
苦痛にシュクレンの顔が歪む。
「あたしは痛みに耐えたわ!来る日も来る日も決して動くことない体を動かすために!脊髄を損傷してしまったの。見えるのは病院の天井だけ。あたしは普通に生きたかっただけなのに、もう普通の人が出来ることすら普通に出来なくなったのよ!お母さんとお父さんはきっとあたしを責めていた。反対を押し切ってまであの学校に入学したのにこんなことになって…いつの日からか二人の姿は見えなくなったわ。あたしの目は見えなくなってしまったの。外の景色も何もかも」
加奈は手を首に宛てがう。そして切る動作をする。

「そして死んだの!独りで寂しく誰にも看取られることなく死んだの!親にも見捨てられ、誰からも必要とされなかった!でもこの世界であたしはずっと好きな学校に居られる!あんた達死神なんかに邪魔されたくないの!」
シュクレンの頭を激しく床に叩きつけた。視界が激しくブレて何度も閃光が奔る。

「あたしを狩ろうとしても無駄!無駄!無駄!無駄!無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!!!」
何度も何度も床に頭を叩きつけた。シュクレンの顔面が鮮血で赤く染まる。

「あ…あぅ…」
シュクレンは意識を混濁させ小刻みに呼吸をしている。

「今までの死神は最初から問答無用で鎌を突きつけてきた…でもシュクレンは違うのね。あたしの話を聞いてくれたし、一緒にランチもしてくれた。あなたとならいい友達になれそうだったのに…結局私を狩るのね?そうはさせない。あたしはずっとここで生きるの!この学校と共に!どうしてそっとしておいてくれないのっ!?」
加奈は刃物と化した手をシュクレンの首にあてがう。

「結局死神も使いのカラスがいないと普通の女の子ね?シュクレンもコレクションの中に加えてあげる」
「…あ」
加奈の手がシュクレンの首に刺さる。
「…痛っ…あ…ああああああっ!!」
血が傷口から流れ出す。その瞬間、大きく脈打つ音と共に不思議な映像が見えてきた。
それはどこかの部屋の天井を見つめている。自分を見下ろすように黒い人影が見える。

ドクン…

(親にも見捨てられたって…)

ドクン…

(あんたなんか産まなきゃよかった…)

ドクン…

(早く死ねばいいのに…)

それは何人か入れ替わり立ち替わり現れては消えていく。
その黒い人影が徐々に顔形が見えるように明るくなっていく。

(早く死ね!)

徐々に声も大きくなる。頭の中に響き割れそうな程大きくなっていく。

(早く死ね!お前なんか!死んでしまえ!!)

人影は恐ろしく歪んだ顔の人になる。それは誰なのかわからないが、怒りの形相に近いものだった。

(お前が生まれたから!お前さえ生まれなきゃ!!)

その顔は徐々に大きくなり視界一杯に広がる。あまりの恐ろしさに悲鳴を上げそうになるが声はおろか体も動かなかった。
ただその言葉を繰り返し繰り返し聞かせられる。