4.学校

「絶望しかなくても自分を保っていられる。学校に居るだけで、頑張ってこれた自分を肯定できる場所なの」
「…うん。加奈…頑張った…すごく」
シュクレンの言葉に加奈は感極まった様子で抱きつく。

「…加奈?」
「ここはあたしの居場所なんだよ。これからもずーっと。いつまでも!」
二人の間に静かな時間が流れる。しばらく加奈は嗚咽を漏らしたあと涙を指で拭うと元の笑顔を取り戻した。

「ありがとうシュクレン。少し気が紛れたよ。そうだ!図書室行こうか!本を読むの好きでしょ?この学校の図書館はすごく大きいんだから!とっても一生かかっても読みきれないかもよ!」
加奈はシュクレンの手を引っ張る。
重厚な木の扉を開くと独特な古い紙の香りと共に高い本棚が幾つも立ち並ぶ図書室が現れる。
「あたし卒業までにここの本を読破するんだ!これ!あたしのお気に入りの本!『弱虫狸のポン吉の物語』面白いよ!」
加奈が差し出した本を手に取る。
「それはね、とっても弱虫な狸のポン吉が暴れん坊狸のゴン太と戦うのよ。でもね、ポン吉はとても力が弱いんだけど仲間と協力して成長していくんだ
!読んでると勇気が湧いてくるのよね~!」
シュクレンはペラペラとページをめくる。
「…卒業したら、どうするの?」
不意に訊かれた質問に加奈は一瞬押し黙る。
「ねぇ、ここ読んで!暴れん坊狸のゴン太と狐の小次郎が戦うの!どっちが勝つかなぁってドキドキするわよ!」
「…加奈?」
加奈はシュクレンの質問を聞き流し一方的に話し続ける。

「加奈…駄目…思い出して…あなたは…」
シュクレンはクロウを探す。
どこからかカラスの声が聞こえた。

「思い出す?何を?どうしてそんなこと聞くの?どうやってシュクレンはここに来たの?」
ゾワゾワと空気が蠢いていく。床の影が加奈の足元へ集まっていく。
「…私は…」
「ねぇ!一緒に勉強しようよ!」
「…待って…」
「好きな先生とかの当てっこしようよ!」
「…加奈…聞いて…」
「学校の七不思議一緒に試してみようか?」
「…加奈…もう…」
「しょーがないなぁ!ここの校則教えてあげるね…下校禁止!卒業禁止なの…!」
加奈の笑みが歪むと髪の三つ編みが解けて足元まで伸びる。床の影が足元から体へと這い上がり両手に集まる。そして手が刃物のように鋭く変化した。

「クロウ!」
シュクレンは叫ぶがクロウは現れなかった。
「…!」
「ここは校内よ…部外者は立ち入り禁止なの!知らなかったの?」
加奈が不気味に笑い出す。すると図書室の本が一斉に棚から鳥のように飛び出しシュクレンを襲う。
「ねぇ!あたし達友達でしょ!一緒に本を読もうよ!一緒にご飯食べて、一緒に勉強しようよ!!一緒に買い物してカラオケして遊ぼうよ!」
「あ…ぐ…トモダチ…!」
再びどこからかカラスの声が聞こえた。

「…屋上!?」
シュクレンは屋上を目指すために図書室を転がりながら飛び出す。
後ろからは加奈が追いかけてくる。

「助けて!」
ふと聞こえた声に驚いた。
声がしたのはトイレだった。中を覗くと三人の女生徒に囲まれた加奈がいた。

「やめてっ!」
「うっさいわね~」
「んんんっ!」
ハンカチで口元を抑えられる。煙草が体に押し付けられる。

「ん゛ぅーーーーっ!!」
悲鳴を上げる加奈を女生徒達は笑って見ていた。
そして振り向きシュクレンを見た。
「何見てんの?」
その姿は加奈になった。
「あっ!」
シュクレンは再び駆け出す。