魂は終わりの無い旅を続け、想いの力は永遠に朽ちる事はない。その強すぎる想いは形となり、妄想を現実にした不浄セカイを生み出す。
突如として闇から光が爆発すると多くの人達が行き交う街の通りにいた。溢れるように人が押し寄せシュクレンはもみくちゃにされながら路地へ転がり込んだ。
「すごい…人…」
耳鳴りが止むと立ち上がり服に着いた埃を払い、隙間から顔を出して周りを伺う。
まるで中世ヨーロッパのような石造りの建物が連なり、大通りが街を分断するように真っ直ぐ伸びていた。
その先には大きな城が建っておりそれなりに発展していた。
「…こんなに人が多い…」
路地から出て人の流れに沿うように街を歩く。
様々な会話が耳に入ってくる。
不思議な程、活気に満ちてはいたが人々の表情は明らかに強張っており表情は固く不自然に思えた。
歩いていると何かを叩く音が聞こえる。
音がする方を見ると一人の女性が少女を棒で叩いていた。
「何回言ったらわかるんだい!!」
母親らしき女性は鬼気迫る表情で少女を叩いていた。
「ごめん!お母さん!痛いよ!」
少女は怯えて丸くなっていた。他の通行人は気にも停めず見て見ぬフリをして歩いていく。
「駄目…やめて…」
シュクレンは思わず制止に入る。
女性は棒を振るのを止めるとその顔に一瞬だけ安心しような表情を浮かべた。
「あんた誰だい?見た事ない顔だね?それにその服装…」
「私はシュクレン…お願いだから…やめて…」
「しょうがないね。おい!早く家に入りな!」
女性は少女に吐き捨てるように言うと家の中に入っていった。
「…大丈夫?」
シュクレンは少女の肩に手をかける。一瞬跳ね上がると小刻みに肩を震わせていた。
「うう…ごめんなさい…お母さん、本当は優しいの…」
少女は震えながら立つ。
「…優しい?」
シュクレンは少女の服についた埃を払う。
「わたし、リスティ。シュクレンはどこから来たの?」
リスティは栗色の髪が肩まで伸びており、その毛先は酷く傷んでいた。やや茶色がかった瞳を潤わせながらシュクレンの顔を覗き込む。
「私は…違う国から…来たの」
「これからどこに行くの?」
「…わからない」
「今からどこに泊まるの?」
「…それも…わからない…」
二人が会話していると家の扉が開く。
「あんた達、いつまでそんな所で話してんだい?早く入りな」
女性が先程よりも静かな声で言う。
「じゃあね、シュクレン!」
リスティが手を振り中に入ると女性がシュクレンを見る。
「あんたも入りな!」
「…私も…?」
「ああ、早くしな!」
少し嫌な感じがしたがリスティがジッと見ているのが気になり頷いた。
シュクレンが中に入ると扉が閉められ施錠された。
「…?」
家の中は整然と片付いており、生活用品は極端に少なかった。木で出来た椅子とテーブル。板を継ぎ合わせて作った食器棚と極わずかな食器だけだった。
決して暮らしは豊かでないことを推測させた。
「あの…」
シュクレンは周りを見て自分の立ち位置がわからなくなり口を開いたが、それを察してか女性が椅子を引いた。
「ここに座りな」
シュクレンが座ると温かいスープが出された。
リスティも同じスープを飲む。
「音を立てないで飲むんだよ」
リスティには強い口調で言う。
「あんたも温かい内に飲みな」
女性の語気に圧されスプーンを手に取る。
「いただきます」
シュクレンは頭を下げてからスープの器に手を添えてスプーンで掬う。
「あんた…この辺の生まれじゃないんだね?」
「…よくわからない…です…」
スープを口に含むと豊かな甘味が広がる。
リスティがスプーンを握って扱っていたのを見てシュクレンが手を添えて教える。
「…こう」
「ふふ…あんた無愛想だけど面倒見がいいんだね」
女性が初めて笑顔を見せた。リスティと同じ栗色の毛を後ろで束ね、化粧はしておらずに肌も荒れていたがまだ若い印象だった。
「…そう…かな」
少し照れて目を伏せる。スープに浮いたスパイスが揺れているのが見えた。
「私はテレッサ。こちらが娘のリスティ。よろしくね」
「…よろしく」
軽く会釈をするとリスティに視線を送る。リスティは満面の笑みで返した。
「外で話してたのを聞いたわ。泊まる所無いんでしょ?家に泊まっていきな」
テレッサはリスティの口の周りについたスープを拭っていた。
「うん…ありがとう」
「シュクレンうちに泊まるのー!やったーっ!」
リスティが喜ぶ。するとテレッサがすぐにリスティの口を塞いだ。
「こら!静かにしなさい!」
「んーんー…」
リスティは何度も頷いた。どうやら複雑な事情があるのだと察した。