「…キリコ、待って…」
シュクレンが前に立ち制止する。
「な、何よ?」
ワニに近づき手を差し伸べる。ワニはしばらく動かずにシュクレンの手をみつめていた。
「…もう棄てない…大切に届ける…」
(生きたかった…もっと生きたかった…)
ワニの言葉にシュクレンは頷いた。
「…私は死神…でも…その想いは届けるから…次に生まれてくる時は大丈夫…」
「おいで…」
その手にワニが乗ると光の粒になり空中に消えた。
シュクレンの手にはガラスの玉のような魂が残っていた。
「ガラスのように…とても透明で…堅くて…脆い…純粋な心」
その魂を抱きしめる。それはまだ淡く光を放ち瞬いていた。
「次、生まれてくる時は…きっと大丈夫」
シュクレンはゆっくり立ち上がる。
「不浄の魂を…倒さずに消した?」
キリコは呆気にとられノスタルジアを見る。
「キリコ、私達の仕事は魂ごと滅する事。あちらは回収する側。仕事の分野が違うわ。中にはそういう能力に長けている死神もいるのよ。なかなか珍しいタイプだと思うわ」
ノスタルジアが羽ばたきキリコの肩に留まる。
「でも今まで出会ってきた死神とはまるで違うわ。あの子なかなか面白いじゃないの!俄然興味が湧いてきたわ!」
「あら?またあなたの悪い癖が出てきたわね?ダメよ!あなたにはあなたの仕事があるのだから構ってられないのよ!私たちの任務を忘れちゃダメよ!」
ノスタルジアは叱責するがキリコは意に介さず満面の笑みを浮かべていた。
「でもあたい達も呼ばれたのはきっとこうならないケースも考えてよね?まだ滅するには値しない不浄の魂だったし、もしかするとあのまま食われていたらもっと強大な魂になって手が付けられなくなるわ。あの子はあたいのパートナーとしても最適だと思うのさ!」
キリコはまんざらでもない表情だ。
「全くお前は甘いんだよ!いちいち不浄の魂に感化されてたらこの仕事は勤まんねぇぞ!今回はたまたま運が良かっただけだぞ?下手したらあのまま食われていたんだからな!」
クロウが溜め息混じりに説教をする。
「…うん」
シュクレンは頷きそのまま俯いた。
キリコは拍手をしながら二人に近付いていく。
「シュクレン!あなたとても気に入ったわ!今まで会った死神の中でも特別異質なものを感じるわ!またどこかで会いましょうね!!一緒に仕事ができるのを楽しみにしているわ!」
キリコはシュクレンを抱きしめると頬にキスをする。
「こ、こら!お、お前…!?ら…」
クロウの体が真っ赤に染まる。
「…あ」
キリコの唇が頬から離れるとシュクレンは真っ赤になり俯いた。
キリコはシュクレンの頬に手を添えて見つめる。
「あなたならきっとこの世界を変えてくれそうな気がするの。あたいの見ているこの世界を」
そう言うと踵を返した。
「じゃーねー!シュクレンとクロコ!」
とキリコは手を振りながら颯爽と去っていった。
「俺様はクロウだ!ちっ…あのチャラ娘め!…まぁ今回はあいつに助けられたな!」
「…え?」
シュクレンは頬を赤らめながら呆然と立ち尽くしていた。
「おい!シュクレン!お前まさかそういうのに目覚めちまったのか?しっかりしろ!」
「…え?」
「ダメだこりゃ…!」
周りの壁が砂のように崩れる。濁った水の流れも黒い砂の中に吸い込まれるように消えていった。
このセカイにはまだまだ迷える魂が存在する。
終わり