「ギギギグァ…か、帰るんだ…家へ…!!俺の家へ!!」
純一郎の顔が苦痛で歪み、裂帛の叫びと共にエンジンが轟音を上げる。
一気に加速を始めシュクレンに襲いかかる。
「シュクレン!寸前で横に飛べ!そして後ろからキツいのを食らわしてやれ!」
トラックが目前に迫ると接触寸前に横に飛び回避すると体ごと大鎌を振るう。
風を切る音が死者の叫びのような禍々しい音を奏でる。鋭い刃先はトラックの荷台にかかるとまるで布を切り裂くように上下に切断する。
「うがあぁっ!!」
切断された荷台から真っ赤な血が噴き出した。
「くぅ~っ!無機物まで肉化してやがるのか!あのトラックも奴の体だ。ダメージはあるようだが決定的じゃない!追撃だ!」
クロウの言葉に頷くと跳躍し間合いを詰める。着地寸前に鎌を振るとトラックのグリル付近を横一文字に斬る。
しかし、トラックは怯む事無く加速するとシュクレンを弾き飛ばした。視界が激しく回転し全身が痺れたような感覚に陥る。
「ぐ…あっ!」
空中で体勢を立て直し膝を付き着地する。
「シュクレン!大丈夫か!?今のは相当なダメージだぞ!さすがにパワーはあちらの方が格段に上だ。これ以上の長期戦はまずい!」
着地の際に膝を強打したせいで足が痺れていた。そして全身を打ち付けたショックで視界が大きく歪んでいた。
「…大丈夫…痛い…」
徐々に視界が定まり鮮明になってくると立ち上がり鎌を構えた。
「帰る…家に…ギグァン!ガっ!」
目の前が突然光に包まれる。
「パパーッ!おかえりーっ!」
子供の声にハッとして振り向く。そこは小さなアパートの一室だった。
「ただいま!進次郎!いい子にしてたか?これはお土産だ!」
純一郎は包みを子供にあげる。子供はそれを受け取ると満面の笑顔で開け始めた。
「これは…純一郎の…家…?」
「お疲れ様、純ちゃん」
先程写真で見た純一郎の妻が優しそうな笑顔を浮かべている。決して豊かではないだろうが、とても幸せな家庭に思えた。
小さな食卓を囲み笑顔を交わしあっている。
「笑っ…てる?」
シュクレンは胸がチクチクする感覚を覚えた。それが締め付けられるように痛みを伴う。
「これが…カゾク?」
徐々に一家の姿は朧気になっていった。
「シュクレン!!飛べぇ!!」
クロウの叫びに驚き跳躍する。飛び上がったすぐ下をトラックが走り抜けた。すぐに荷台の上に乗ると鎌を振り下ろす。鮮血が飛び散り荷台が生き物のように痙攣する。
「ぐぎぅ!!家に…帰る…!!」
純一郎は一瞬怯んだもののシュクレンを振り落とそうと激しく蛇行するが振り落とされまいと刺さっている大鎌に掴まる。
「シュクレン!本体以外は決定的なダメージを与えられないようだ!あいつの頭に直接俺様を叩き込め!!」
「……うん」
シュクレンは一瞬躊躇った。純一郎の想いは自分の一撃で全て終わるのだ。
「可哀想とか思うなよ?俺達は死神なんだ!甘さを捨てろ!!死んでも死にきれない奴に死をプレゼントしてやるんだ!」
「……うん」
トラックは凄まじい速度で走り続ける。強い風が顔面を叩き続けた。
「絶対に振り落とされるなよ!!何とか踏ん張って運転席まで移動するんだ!!」
「うん…わかった」
「グガァギァァォォォォ!!!」
トラックは際限無く速度を上げていく。走行風に煽られシュクレンの体が浮き上がった。
「うああ…!!」
「シュクレーン!!踏んばれぇーっ!!」
「うあおおおお!!」
体を振り勢いを付けると大鎌を引き抜き荷台を蹴って跳躍する。トラックの速度を超えて運転席の上へと移動した。