どこからか現れたカラスが再びフロントガラスを叩く。
「あの時…女は突然剃刀を出したんだ…それから…?それからどうしたんだっけ…ああぁ…」
純一郎が頭を押さえて何かを思い出そうと激しく頭を振るとトラックは更に激しく蛇行を繰り返す。
「そうだ…思い出した…俺は…俺は…あの女に殺されたんだ…あの赤いヒールの女に…あああああぁぁぁっ!!」
純一郎が叫ぶと同時に下半身が溶け出したようになりトラックと同化し始めた。
フロントガラスが割れてカラスが叫ぶ。
「シュクレン!早くそこから降りろ!そいつはヤバい不浄だぜ!!」
「…クロウ」
シュクレンがひらりとトラックから飛び降りるとクロウが近くに降り立つ。
「随分ドライブを楽しんだようだな!“死の記憶”を思い出せたからまだ浅い魂だ。しかし、余程現世に未練があるらしい。おまけに妖化し無機物と同化してるから浄化に時間がかかるな!やるぞ!シュクレン!俺の名を叫べ!」
「…うん。クローウッ!」
差し出されたシュクレンの右手にクロウが留まると黒い光を放ちながら姿を変えていく。
それは大きな鎌になり、シュクレンの体に青い炎が迸り、髪が三本の束となり立ち上がる。服に黒い紋様が現れた。
「現世への未練が強くなればなる程魂の力は強くなる。油断するなよ!俺達死神は不浄の魂を狩る立場だが、勝率は五分五分なんだ。死神とて不覚を取ってる。窮鼠猫を咬むってな、まさかの事態も有りうる。向こうも必死だ。死力を尽くせ!!」
鬱蒼としていた森に闇の侵食が広がり黒い空間が形成された。
トラックがゆっくりと向きを変えてシュクレンと対峙する。
「走り続ける迷える魂よってか!死の迷走ドライブはここで終わりだ。この広大なデスドアで俺達死神に出会えた事を感謝するんだな。腐りきった魂はその場で消滅させられちまうからな」
「…クロウ、こんなに…大きい不浄は…初めて…」
シュクレンは大鎌を構えるがそのトラックの大きさに圧倒されている。
「心配するな。俺様に斬れないものはない。しかし、お前の魂に迷いが生じれば十分な切れ味は発揮出来ない。大きいのは強みでもあるが弱点でもある。これだけ標的が大きくなれば、適当に振り回しても当たるってものだ!!」
「…わかった」
シュクレンの瞳が蒼い光を放ち、純一郎の姿を捉えた。純一郎の顔が狂気をはらんだように醜く歪み、目がドス黒い血で充血し、瞳だけがギラギラと異様な光を放っていた。
「俺は…家に…帰る…!!帰るんだ!!」
トラックのエンジンが激しく唸りを上げ加速を始める。
「来たぞ!!まずはあの突進を躱せ!!」
クロウの指示に従い寸前で跳躍しトラックを回避する。突風が体を揺らす。
トラックはドリフト状に反転するとタイヤをホイルスピンさせ再び突進してくる。
「ちっ!あのトラックじゃ考えられねぇくらい速い!!再び躱せ!!」
着地と同時に横に飛び回避する。
「今だっ!!」
荷台部分に大鎌をヒットさせる。
「硬いな!シュクレン!わかったぞ!奴の攻撃は突進してくるしかない。単純だが衝突した場合はその衝撃は計り知れない。気を付けろ!!」
再びシュクレンと純一郎が対峙する。
「あああ…帰りたい…帰りたい…ガゲァ!」
純一郎の頭がガクガクと揺れエンジンが何度も轟音をあげる。
「死んでも家に帰れないとはな!可哀想な奴だぜ!俺達死神はそんな連中を家に帰してやるのが仕事なんだ!!シュクレン!やるぞ!!」
「…うん」
シュクレンは半身に大鎌を構える。