6.死の迷走

純一郎が発進して猛加速し迫る。

「お、俺は…帰るんだ!家族のいる家へ!!帰るんだぁ────っ!!!!」

「…純一郎…思い出して」
跳躍してトラックの猛進を回避し体を回転させながら鎌を振るとトラック前部のピラーが切断されルーフが吹き飛んだ。

運転席が露になり、呆気に取られる純一郎と目が合う。
ゆっくりと助手席に着地し鎌を構えた。怪しく黒光りする大鎌の刃が純一郎の首にかかった。

「お、俺は…い、家に…帰りたい!!帰りたい!!お願いだ…このまま…家に帰らせてくれ!!」
震える純一郎の声に一瞬躊躇った。

「シュクレン!何をしている!?楽にしてやれ!死のドライブはもう終わりだ!」
クロウの声に促され大鎌を純一郎の頭部に向かって振りおろした。

「うおあぁぁぁぁぁっ!」

鎌が突き刺さった瞬間、純一郎の体から光が溢れる。
その光は細かい粒になり上へと舞い上がり、それに伴って純一郎の大きな体が小さくなって薄れていく。

「俺は…家に…帰るんだ…帰らなきゃ…」
純一郎の目から涙がこぼれる。

「…純一郎…もう帰れない…あなたは死んだもの…」
シュクレンは足元に転がる写真を純一郎の手に渡す。

「あああ…ああ…」
純一郎は写真を愛しそうに抱き締めると最後に大きな光を放ち、ガラス玉のような魂になり床に転がっていった。

その直後トラックが砂のように崩れ去る。

「不浄セカイが終わり、闇へと回帰する。俺様はこの瞬間が美しくも切なく思えるぜ…」
目の前には瓦礫が転がるただの闇が広がっていた。
シュクレンは暗闇の中で光る純一郎の魂を取る。

「…怖いけど…優しい…そして…温かい…カゾク…」
シュクレンは純一郎の魂を胸に添えると袋の中へと入れる。
クロウは大鎌の変化を解きカラスに戻ると翼を何度か広げ体をほぐした。

「随分らしくないな…家族が恋しくなったか?」

「…私の…カゾク?」
シュクレンはクロウを見つめる。
「いや、何でもない。しかし、殺人事件の被害者か…浮かばれないわけだぜ。死んだ事を忘れて走り続けていたわけだ。まさに『死の迷走』ってわけだな」

「…私の…カゾク?」
シュクレンはしゃがんでクロウに詰め寄る。

「いや、俺様はお前の家族じゃねぇぞ!」
クロウは狼狽し照れくさそうに顔を背ける。
「クロウ…カゾク…いるの?」
「俺様に聞くな!」
シュクレンの問いにクロウは押し黙り、しばし考えた後にこう呟いた。

「もっともここじゃ、お前は俺様の…家族みたいなもんだが…な」
「…クロウ…私の…カゾク」
シュクレンはクロウを抱え上げると右肩に乗せた。
「バカヤロウ。照れくせえじゃねぇか!」

その様子を見つめる赤毛の少女とカラスがいた。

「ふふ、面白いわね!まだ青臭くて未熟だけど、熟れたらとても美味しそうね!」
赤毛の少女は舌なめずりをして不敵な笑みを浮かべる。

「ほほほ、クロウも新しい従者に戸惑ってるわね!教育が長引きそうだわ!」
少女の右肩に乗っているカラスもクチバシを鳴らして笑った。

この世界にはまだまだ迷える魂が存在する。