10.紅い死の微笑み

ランタンの光がゆらゆらと岩壁を照らす。グレッグがゆっくり歩いてくる。
炭鉱夫達に戦慄が走り各々武器を構える。
「早くアイツを殺すんだ!!落盤を起こしたのは俺達を殺すためなんだよ!!ティンはアイツに殺されたんだ!!」
「なんだと!?何のために!?」
「アイツは自分のウサギを殺してたのを俺は見たんだ!!アイツは殺す事に快感を覚える異常者なんだよ!!」
トンはまくしたて、みんなを扇動する。
「違…」
グレッグが話そうとすると炭鉱夫達は一斉に武器を手に襲いかかる。
「が…違う…違う…俺、殺してない!」
グレッグの声は炭鉱夫たちの怒号によってかき消され誰の耳にも入らなかった。
グレッグの視界が血によって赤く染まっていく。
「ゲハーッ!!」
大きなため息をつくとハンマーを横に振る。
鈍い音が坑内に響き炭鉱夫二人が一気に弾き飛ばされた。岩壁に叩きつけられ糸の切れた操り人形のように生気なく倒れた。
「げ…は…違う、違う!」
「ほら見ろ!!アイツは俺達を殺すんだ!!早く始末しろーっ!!」
トンがさらに煽り、炭鉱夫達はさらに攻撃を加える。
「グレーッグッ!やめろ!!みんなもやめるんだ!!」
親方が叫ぶが既にパニック状態のみんなを鎮める事は出来ない。

その頃リュックは狭い隙間を縫うように這っていた。

「暑い…」
体力は消耗し、全身擦れて傷だらけだった。
すると後方から炭鉱夫達の叫び声や悲鳴が聞こえた。
「な、何?何が起きてるんだ?」
鈍い衝撃音が響いてくる。落盤が続いているのだとリュックは思った。
「い、急がなきゃ!」

「がぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
グレッグは立ち上がるとハンマーをめちゃくちゃに振る。凄まじい怪力で振り回されたハンマーに炭鉱夫達は次々に倒されていく。
「グレッグ…お前って奴は…!?」
親方とグレッグが対峙していた。

「親…方…違う、俺…」
その時、グレッグの尻にスコップが叩き付けられた。
「親方!今だ!!早くグレッグを倒してくれぇ!!」
カンが叫ぶ。
「親方!俺、あ」
グレッグが親方の方を見るとツルハシが肩に振り下ろされた。
「うがぁ!痛ぇっ!!あが…!」
ツルハシは肩に深く突き刺さり、激痛が脳天にまで突き抜けた。

「ぬおぉーっ!」
親方がツルハシを抜き更に振りかかるとハンマーで弾かれた。
そして爪先にハンマーを落とされる。

「ひぎぃーっ!!!」
「親方、話、聞いてくれない!!」
ハンマーが顔面に叩きつけられて血飛沫が舞う。親方の体は何回転もし、吹き飛ばされ地面を転がった。

「んがぁーっ!!」
グレッグは完全に理性を失い、狂気の雄叫びをあげた。もう戻れないと悟った。かつての暮らしにも。自分にも。
トンはすぐに奥に身を隠す。
「親方の仇!!」
炭鉱夫達の目には憎悪の念が浮かび、グレッグを睨んでいた。グレッグにはその目が獣のようにギラギラと白く光り、恐ろしく思えた。
力の限りハンマーを振り回す。強い耳鳴りがして頭が締め付けられるような感覚に襲われた。体が勝手に動き炭鉱夫達を次々に撲殺していく。
頭蓋骨を砕く感触がハンマーの柄越しに伝わってくる。血飛沫が坑内の天井にまで達し、肉片が壁に飛び散っていた。
振り向くとそれはかつて仲間だった者達が横たわっていた。