9.紅い死の微笑み

入口は完全に岩で塞がっていた。
「ちくしょう!まるで動かねぇ!」
ランタンの光だけが頼りだった。光に照らされ粉塵が舞っているのが見える。

「これは外部からの救助待つしかねぇな」
親方が溜め息をつく。

「親方!ここに少し隙間があります!」
炭鉱夫が指差した所から風が吹いていた。親方は手をあてがうと確かに風を感じた。少し岩を避けると結構大きな隙間ができた。

「ダメだ…人は通れない。そうだ!細身のリュックなら通れるかもしれない!腰にロープを巻いて外に出て俺達の無事を知らせてほしい」

「わかりました!」

「もし行き止まりだったら1回引っ張れ!外に出たら2回だ。いいな?そしてロープに薬と食糧を縛ってほしいんだ。これはかなり長期戦になりそうだ。おっと、もう一本ロープを繋ぐのを忘れずにな!」

「はい!」
リュックはロープを腰に縛り狭い穴を這っていった。

ゆっくり流れていくロープを炭鉱夫達は眺めていた。
「暑い…リュック…早く頼むぜ…」
固唾を飲んで流れていくロープを見守った。

「ひっ…ひひひ…」
グレッグは笑っていた。

「お前!何がおかしいんだ!?お前が馬鹿力で叩いたもんだから崩れたんじゃねぇのか!?ああん!?」
ティンはグレッグを蹴る。

何度も罵声を浴びせ蹴った。するとグレッグは急に押し黙りハンマーを手に取った。

「な、なんだよ…やるってのかよ!?」
ティンはグレッグを更に蹴る。

グレッグはハンマーを振り上げるとティンの頭に叩きつけた。頭蓋骨が砕ける音と共にティンは叫ぶ事なく倒れた。
トンとカンが呆気にとられ後ずさる。

「お前ら、みんな、殺す!」
「おい!みんなに知らせるぞ!!」
ティンとカンは猫背になって走って逃げた。
「親方ーっ!大変だ!!」
その異様な悲鳴は炭坑の中に反響し、気付いた炭鉱夫達がざわめき始める。
「お、親方…グ、グレッグが…狂いやがった!落盤を引き起こしたのはグレッグだ!!俺達を全員殺そうとしてるんだ!!」
トンが震える手で炭坑の奥を指差す。親方はランタンを手に暗闇の中へと歩を進める。暗闇の中からグレッグがランタンの光によって照らし出された。
「おい、グレッグ!どういうことだ!!」
親方がランタンをグレッグの顔に近付ける。
ランタンの光に照らされたグレッグの手には血まみれのハンマーが握られており、その表情は笑っているようで泣いているような判別のつかない表情に満ちていた。それは正気を失った人間の表情であり、親方は全身に悪寒を感じた。
「お、親方…あい…みんな、殺す…!」

「うわぁ!」
思わず叫ぶとよろめく足を奮い立たせ走り炭鉱夫達の所に戻る。

「お前達!武器を持て!グレッグがおかしくなった!!」
炭鉱夫達はそれぞれに目を見合わせ武器を持った。
武器と言ってもツルハシやスコップくらいで戦うには心許ないものだった。

暗闇に向かい武器を構えた。