5.紅い死の微笑み

「俺、体デカい、だから暴力嫌い」
グレッグは大きな体を竦めて言った。
「はぁ?意味がわからないわ。そんなデカい体してるのならみんなビビってしまうはずじゃない?」
「お前わかってない、こっち来い」
グレッグはキリコを促すと歩いていく。
「ん?」
グレッグの後をついていくとウサギ小屋の前に着いた。
小屋の中では小さなウサギが3羽いた。
「あんた…まさかウサギも食べる気なの!?」
「いんや、ウサギ、子供達喜ぶ。だから育てる。俺、体デカいから、力入れるとウサギ死ぬ、だから暴力嫌い」
グレッグはウサギをそっと手の平に乗せた。そして、炭で塗れた黒い顔をほころばせウサギを優しく撫でていた。
「あんた…意外と優しいのね?ちょっと変な奴って思ってたけど…見直したわ!」
キリコはグレッグの背中を叩く。
「ひぃ!やめてくれゲス!!」
グレッグは思わず条件反射で身を竦めた。
「あらあら…」
キリコとノスタルジアは見つめ合った。

「お前、名前は?」
「あたいはキリコ!さすらいの手品師よ!」
「手品師?なんだそれ?」
グレッグは頭を捻る。
「こういうことよ!」
キリコは手の平から花びらを吹き出した。
「おお!!お前、すごいな!!」
グレッグは目を輝かせて大きな体を子供のように弾ませていた。
「あんたって最初は変な奴だと思ったけど、案外純粋な人なのね!」
「ジュンスイ?それなんだ?」
「ま、いい人って事よ!」

太陽が高く昇り街が活気づいてきた頃、キリコは炭坑に続々と入っていく男達を見ていた。
「あれでもない、これでもない…もちろんあれは違うわね…」
「キリコ!1人の労働者がこれだけの不浄セカイを生み出すとは考えられないわ!たぶんこれらを管理する支配者だと思うの!」
ノスタルジアは提案するがキリコは流れていく人々を目で追っていた。
「そうかもしれないわねぇ~…でも、支配者が不浄ならこんなにたくさんの労働者はいないと思うのよね。あんなに汗水流して働いてる人達を認知していないはずだわ」
「あ…キリコ鋭いわね!」
ノスタルジアは何度も頷き納得した。妄想が形になるデスドアでは不浄が認知してない世界は形成されないのだ。
「それに日中にあれだけ労働者が溢れてるのも不自然だった。リュックが交代制だと言っていたけど…つまり、不浄はあの界隈を領域にしている労働者である可能性が高いわ」
「遊んでるように見えてきちんとお仕事していたのね?たまたまかもしれないけど!」
ノスタルジアはクチバシを鳴らす。
「あ!リュックがいたわ!グレッグも後ろにいるわよ!おーい!頑張るのよー!」
キリコが手を振ると二人は笑いながら手を振り返した。
「笑ってるねー!いいなぁ…」
その後ろにグレッグを蹴飛ばしていた3人組がいた。
「あの弱そうなのが不浄とか…?無いかな?」
3人組は何か面白くないような顔をしている。仕事が嫌なのか常に鬱憤を抱え込んでるようだった。
「そうかもね。でもまだ決めつけるのは早いわ。向こうから動くのを待つのよ」