2.ガラスの心

口の中へ飴を入れると甘みが広がり舌がピリピリとした。それはどこか懐かしいような味だったが思い出せなかった。

「どう?美味しい?」
キリコが笑顔でシュクレンに聞く。
「…うん。美味しい…」
シュクレンの答えにキリコは何度も頷いた。そして、クロウの方を見る。

「ふーん。味覚はきちんと残してるのね。こんなセカイに必要ないのに…優しい所あるじゃない」
「ふん。別にそれを残しても問題無いし食べる楽しみくらい与えてやろうと思ってな。それに味がわかれば食べることにも積極的になってダメージの早期回復にも役立つからな」
クロウの言葉にキリコは頷きノスタルジアを見る。

「ふふふ、やっぱり噂通りとっても思いやる死神みたいね。さすがノスタルジアのライバルね!」
「ライバルだなんて昔の話よ。今は立場も地位も違うわ。どうしてあなただけ昇格しなかったのかしら?」
ノスタルジアの問いにクロウはそっぽを向く。
「出世に興味が無いだけだ!俺様は今の仕事が性にあってるんだよ」
「あなたは昔から不浄に対して情が厚かったわよね。滅ぼすよりも捕まえてる方がお似合いだわ」
「勝手に言ってろ!」

水路を進めば進むほどに臭気が強まり水音が大きくなっていく。

「しかし、二組で仕事させられるなんて珍しいな。それもよりによってノスタルジアとなんてな。おまけに不浄セカイに入り込んだ途端にこの環境だ」
クロウが辺りの様子を伺いながら言う。

「それだけ強敵って事じゃない?あなた達だけじゃルシファー様も不安だったのよ?私達なら心配及ばずだけど、その従者じゃまだまだのようだしね」
ノスタルジアは余裕だった。それはキリコを信頼している証だった。

「ねぇねぇ、シュクレンのお願い事って何?」
キリコは唐突にそう訊くとシュクレンに詰め寄る。

「…お願い…事?」
シュクレンはぼんやりして聞き返した。

「あら?何にも知らないのね?死神なりたてだからかな?うふふふ!」
キリコは満面の笑みで楽しそうに語る。

「…なぜ…笑うの??」
シュクレンは会ってからずっと笑顔のキリコが不思議だった。
「うん?楽しいからに決まってるじゃない!!てか君は楽しくないの?まぁ、もっともにしてこ~んな暗くて狭くて汚い場所じゃ楽しくないかぁ~!あたいはどんな不浄なのかワックワクしちゃうけどなー!強ければ強い程燃えてくるわね!」
キリコは身振り手振り交えながら大きな声ではしゃぐように語る。

「…楽…しい?…わからない。私…笑えない…」
シュクレンは俯く。足元をネズミが走り回っていた。

「笑えるよ!いつかきっと!こうやって笑うのだーっ!!」
キリコはシュクレンの両頬を引っ張る。

「……うん」

「お喋りはここまでだ!」
クロウがクチバシで先を差した。

更に大きな水音が耳を刺激する。
様々な方向の水路から滝のように水が流れて合流し、大きく複雑な流れを作っていた。より一層腐敗臭が強くなる。
そこは大きなホールのように開けており天井は高く、その先は暗闇で見えなかった。

「しかし汚い水ねぇ…。濁っていて何も見えないわ」
キリコがしかめっ面で水面を眺めていた。
すると突然水が盛り上がり巨大な何かが勢いよく飛び出した。シュクレンとキリコは素早くその場所から跳躍し離れた。