強い未練を残した不浄の魂は強い想いの力で自らの妄想を形にして不浄セカイを作り出す。
その多くは生前の世界そのままを再現されるが時に歪んだ形で現れる。
地上には大都市があるであろう迷路のように入り組んだ古い下水道の中を歩いていく。
鼻につく強烈な腐敗臭と酷く濁った水が轟々と音を立てて流れている。足元を無数の鼠が走っていた。
「くっさっ!何なんだ!?ここは!?上品な俺様には相応しくない場所だぜ!なぁ、シュクレン!?」
死神カラスのクロウが叫ぶと声が何度も反響していく。
「…そう」
同行するシュクレンは素っ気なく返事をする。
不平ばかりを言うクロウをもう一組の死神カラスが見ている。
「この不浄の魂はどんな趣味してるのかしらね?わざわざこんな不衛生な場所を舞台にするなんて…正気じゃないのは確かね!」
首に白い縁があるカラスがかん高い声で喋ると従者の女の子はクスクスと笑う。
「ねぇ!あなたが噂の期待の新人でしょ?あたいキリコっていうの!で、あの死神カラスがあたいの主のノスタルジア。宜しくね!!」
キリコは赤い髪を後ろで束ね、ピアスを付けレザーパンツを穿いた派手な装いの女の子だ。左腕に巻いた赤いバンダナが目についた。
「…うん」
シュクレンは目を合わせずに無愛想に頷く。
「期待の新人は随分無愛想だこと。クロウ、これはあなたの教育なの?それともツンケン趣味?」
ノスタルジアは笑う。
「あら、ノスタルジア。笑うのは失礼じゃない!あたいこういう子好きよ!まだ死神なりたての初々しい感じがするじゃない!いい匂いするし」
キリコはシュクレンの髪に鼻を近付ける。
「ふん、勝手に言ってろ!シュクレンの実力は本物だぜ。ま、少々甘ちゃんで不浄に感化されて隙だらけになるけどな!これから俺様がきちんと教育して一人前の死神にしてやるんだよ!」
「ふぅん、ウチのキリコも凄いわよー!連戦連勝で最近では珍しく好戦的な従者なのよね。久しぶりに会ったからお互いに従者が変わったのを知らなかったわよね。ルシファー様の期待に応えられればいいわよねぇ!ふふふふふ!」
ノスタルジアは不敵な笑みをクロウに向けた。
「ちっ…」
クロウはノスタルジアとは古い付き合いだったが鼻につく高飛車な態度が気に入らなかった。
「…るしふぁー…?」
シュクレンが素っ頓狂な声で訊くとノスタルジアとキリコは笑いだした。
「おほほほ!面白いわね!まずはそこから教育しないといけないようね!」
ノスタルジアは高らかに笑うとキリコに目配せをする。
「ノスタルジア笑っちゃ悪いわよ!あたいが教えてあげるわ。ルシファーはあたい達死神をこき使ってる生意気なガキよ。いつか会えると思うわ!」
「キリコ!ルシファー“様”でしょ!」
ノスタルジアの言葉にキリコは仏頂面をした。
「…ナマイキナガキ?」
「そうそう!生意気なガキんちょよ!あんたのクロウもあたいのノスタルジアもルシファーの部下なわけ。あたい達死神はその下なのよ。散々こき使われてるしがない労働者なのよ」
キリコはペラペラとまくし立てるとポケットから何か取り出した。それをシュクレンに差し出す。
「あげるわ」
それは小さな袋に入っている何かだ。
「…これは?」
「飴よ。サイダー味で美味しいわよ~」
キリコは包装を開けると口の中へ飴を放り込んだ。
「おい!シュクレンに変なものやるなよ!?」
クロウが思わず口を挟む。
「別にいいじゃない。動物園の猿じゃないんだから飴くらい大目に見なさいよ。あんたにもあげるわ」
「い、要らねぇ!俺様は甘いのが嫌いなんだ!」
「あっそ!」
シュクレンは袋から飴を取り出すと口の中へ入れてみた。