3.ひとときの休日

テーブルには様々な形や色のクッキーやケーキが並べられた。
「うん!上出来上出来!」
キリコはそれらを見て満足そうに何度も頷いている。

「シュクレン、珈琲の淹れ方は”の”の字を描くようにゆっくりとお湯を注ぐのよ」
キリコは立ち上る香りに顔をほころばせる。

「シュクレンが焼いたクッキー美味しいわ!はい、ア~ンして!」
キリコはシュクレンの口にクッキーを運ぶ。
「…美味しい」
「自分で作ると不思議と何でも美味しいのよね!」

ソファー寄り添い寛ぐ。キリコは本棚にあった本を開く。
「あたいね、この本好きなんだ!道化がお姫様に恋をするの!でもね、道化は所詮道化で恋は…」
「…」
シュクレンはその話を聞いていた。キリコを見ていると飽きなかった。まるで猫のように何でも興味を示して夢中になっていく。そんなキリコが好きだと思った。

寄り添い合って昼寝をしたり、怪我の処置をしたり緩やかに時間が流れていく。

「ほら、こうやって髪を結わえると可愛いよ!」
キリコがシュクレンの髪を弄って遊ぶ。
「…」
されるがままになった。

始終キリコは笑顔だった。笑うことは出来なかったがなんとなく楽しいという感情がなんなのかは理解できた。
そして、”今日”の終わりがきた。
「時間が経つのは早いわね~。こんなに楽しい休日は久しぶりよ!いつもはあたい1人だし、プライベートではノスタルジアと会わないしね」
「…ノスタルジアと…キリコ…仲いい?」
「そりゃあいいわよ!最高の相棒だわ!主従関係というよりは姉妹みたいなものね!シュクレンはクロコと上手くいってないの?」
シュクレンは首を横に振る。
「…クロウは…厳しいけど…」
「あたい達は主に恵まれてるのね。他の死神なんか酷いものよ~従者なんて代わりはたくさんいるからほぼ使い捨てね!」
「…代わり…?」
「うん。あたい達死神は不浄になる前の魂から作られるのよ。つまりはデスドアに堕ちて間もない頃にね。だからたくさんいるわ。従者なんてゴミのリサイクルだとしか思ってない死神カラスもたくさんいるわ!」
キリコの言葉にシュクレンはふと何かを思い出した。現世にいた頃の自分はどうだったのだろう?と。
今まで考えたことも無い考えが突然浮かび上がったのだ。
そして、クロウが言った言葉を思い出した。

「お前まさか記憶が…?」

クロウが現世にいた頃の記憶を奪ったのだ。
「…クロウが…私の記憶を…?」
「ん?ああ、死神の契約ね。死神カラスと契約するには記憶や感情を捧げるのよ。そうすることで魂が繋がって死神の武器を使う事が出来るのよ。あたいは薄ボンヤリと現世の記憶が残っていたからノスタルジアにアレコレ聞いたわ」
「…現世の…キオク?」
「うん…。でも思い出すとすぐに忘れちゃうの…夢から覚めたみたいに頭から解けていくのよ」
一瞬だけ寂しそうな表情をしたがすぐにいつものキリコに戻った。
明るかった窓が暗くなっていた。
「シュクレン!楽しかったわ!また遊ぼうね!」

「…うん」
途端にシュクレンが不安そうな顔をする。
「どうしたの?」

「あの…キリコ…」
シュクレンは俯いてモジモジしている。
「うん?」
「…その…どうして良くしてくれるの?」
シュクレンの頬が真っ赤になる。