「…なんか…変」
シュクレンがボソリと呟く。
「ふぇ?ふぁひは?(へ?何が?)」
既にキリコは口一杯に食べ物を詰め込んでる。
「…」
返答に困りぼんやりとキリコを見つめる。キリコは口の中のものを飲み込むと微笑んだ。鳶色の瞳がシュクレンを見つめる。
「シュクレンはどうしても笑わないのね?」
「…どうして笑うの?」
キリコの問いにシュクレンは即座に聞き返した。
「楽しいから!」
キリコが白い歯を見せて笑う。
「楽…しい?」
シュクレンが俯く。どうしてもわからなかった。今まで自分は笑っていたのだろうか?
笑うこととはなんだろう?
どんな時に笑うのだろう?
ずっと考えていたが答えはわからないままだった。薄ぼんやりした何かが胸の中で膨らんで息苦しく感じた。
「あたいはさ、シュクレンの笑った顔見たいな!きっと凄く可愛いわよ!」
「可…愛い?」
「なんかいちいち面倒くさいわね~もっともこのデスドアじゃ笑える事も少ないか…今日はあたいにとことん付き合ってもらうわよ!まずは食べたら後片付けね!」
「…うん」
二人でキッチンに並び後片付けをこなす。シュクレンは要領がわからずぎこちなく動く。
「ランタッター♪ララリラ~♪」
「…」
相変わらずキリコは鼻歌交じりの上機嫌で手際よく素早く片付けていく。
「…キリコ…何でも出来る…すごい」
「ん?あたいだって最初から何でも出来たわけじゃないわよ。出来ないことにも果敢に挑戦してきた結果…かな?」
「…カカンニチョーセン?」
「そう、やらないうちから出来ないなんて言わない事ね!とりあえず何でもやってみるのよ!それで何度もやってダメだったらスッパリ諦める!でもね、誰でも本気で取り組んだら大体の事は出来ちゃうのよ。やるかやらないか!続けるか続けないか!それだけよ!」
キリコは綺麗にシンクを拭きあげると布巾を畳み手を叩いた。
「とっても綺麗になったわ!ありがとうシュクレン!」
「…うん」
「うふふ~、本当のお遊びはここからよ~!」
キリコは不敵な笑みを浮かべるとシュクレンの手を引っ張り隣の部屋に移動する。
真っ直ぐクローゼットに向かうと扉を開ける。
中にはたくさんの服が取り揃えてあり、その中から幾つかの服を吟味している。
「シュクレンはこの服が似合うわね!色は…」
キリコはシュクレンに服をあてがう。
「ちょっと大きいかな?でも着てみて!」
「…」
それはいわゆるゴスロリファッションだった。
「シュクレン可愛い!まるでお人形みたいね!」
手を叩き飛び跳ねて喜んでいる。シュクレンはキリコの笑顔を見ると何となく安心した。
「あーっ!それともこれかな!」
「…」
差し出されたのはメイド服だった。
「可愛い!これからこの服を着てよ!メイド死神は需要あるかもしれないわ!これからの流行りになるわ!」
「…キリコ…どうして…服たくさん?」
「気持ちを切り替えるのに服はたくさんあった方がいいのよ!一番手っ取り早く好きな自分になれるの!」
「好きな…自分?」
「そうよ!状況や気分に応じて服を選ぶのよ。袖を通した途端にスイッチが入るのよ。あのクロコの趣味の服じゃダサいでしょ?」
シュクレンはそれから何度も服を着たり脱いだりしてキリコに遊ばれていた。
台所でお菓子作りに興じる。
「はい、これ泡立てて!」
キリコはシュクレンにクリームが入ったボウルを差し出す。
「…」
無表情のままかき混ぜる。
「シュクレン…無表情でかき混ぜてると怖いわ!もっと楽しそうにやるものよ!こうよ!こう!こうやって笑うの!」
キリコは満面の笑顔を向けた。