4.ガラスの心

「うぅーっ!ゾクゾクするわぁ!」
キリコが突然満面の笑みで震えだす。

「……」
シュクレンがそれを見て不思議に思った。
どうして笑っているのだろう?
どうして笑えるのだろう?と。

「あたいってさ、このセカイじゃ絶対無敵最強の死神なのよ!だからさぁ退屈してたんだよね!めちゃんこ強いのと本気出して戦ってみたかったの!くぅーっ!たまんないわね!」
キリコはノスタルジアの大鎌を抱き締める。

「…変」
シュクレンが呟いた。
「変じゃないわよ!いつかはシュクレンもわかるわよ!頂点を極めた者の退屈さが!でもせっかく二組なんだから作戦使っていくわよ!あなたの実力も知りたいし!」
キリコが人差し指を立てて提案する。

「シュクレンがあいつをかき乱してあたいがトドメ!大口を開けさせて!そうしたら口の中に特大の一発お見舞いするわ!」
キリコは銃を撃つ仕草をしてウインクをする。
「…わかった」
シュクレンが頷く。

突然揺れ始め、水路の壁が轟音を立てて広がる。
「ぐぅ…気を付けろシュクレン!自らのセカイを歪める想いの強さだ!油断するなよ!」
クロウの言葉に頷き大鎌を握る手に力が入る。

「さすがに窮屈でセカイを歪めたのね!あちらも本気みたいよ!シュクレン!頼んだわよ!」

シュクレンが身を低くし走り出してワニに接近する。
鎌の先が唸る。

(ねぇ…どうして捨てるの?)

「!?」
突然声がしてシュクレンの動きが止まった。その声は直接頭の中に響いてきた。

(酷いよ…捨てないで…僕を…)

「…誰?」
シュクレンが声に集中する。

(可愛くなるから…大きくならないから…捨てないで…)

「…?」

「シュクレン!!何してんのよ!?」
キリコの声に我に返った。
それと同時に目の前にワニの尻尾が迫っていた。

(お願い…捨てないで…)

とてつもない衝撃に飛ばされ体が空中で無造作に回転して壁に叩きつけられた。

「がはっ!…ぐっ!」
床に倒れ伏すと全身に凄まじい激痛が突き抜け口から血が吹き出した。口の中が切れていた。口の中に鉄の味が広がる。

手から離れた大鎌はカラスに戻りシュクレンの所に戻る。

「バカやろう!魂に感化されやがって!いいか!このセカイじゃ俺達は魂を狩る方だ!でもな、油断したり同情したりしたら俺達が逆にやられちまうんだ!そういうセカイなんだよ!!わかったか!?俺様が護ってなければ今の一撃でお前は即死だったぜ!」
クロウはシュクレンの服にまとわりつく事で通常よりも遥かに防御力を高めていた。
しかし、ワニの一撃はそれをも貫通してシュクレンの体に甚大なダメージを与えていた。
「うあぁ…ゲホッ…ゴホッ…」
シュクレンは咳き込むたびに血を吐く。

「シュクレン…右手を差し出せ!俺様を握ろ!そして立ち上がれ!」
クロウはシュクレンの周りを飛ぶ。
しかしシュクレンの手は細かく痙攣しており立ち上がる気配がない。

「ちっ…駄目か…」

「あらあら、やられちゃったのかしら?つまんないの~…ちょっと期待してたんだけどな」
キリコがため息をついた。

「ノスタルジア!」
キリコが大鎌を空中に放り投げるとカラスに戻る。
そして羽ばたくと再び右手に止まり長い白金の槍に変化した。

「結局あたいがやるしかないかー。いつもこうなるのよねぇ。少しは華を持たせてやろうかと思ってたのに残念だわ!」