シュクレンは倒れたまま動けなかった。
クロウが何かを叫んでいるが耳鳴りがしてまるで聞き取れない。目の前が暗くなり意識が少しずつ薄れていった。
キリコはシュクレンを見ながら槍を構える。
「やっぱり立てないようね…こうなったら問答無用即殺あるのみだわ!」
キリコはワニの周りを円を描くように走りながら間合いを詰める。
「広くなった分こっちも戦いやすいわね!」
「キリコ!尻尾の一撃に気を付けて!私はクロウみたいに防御へは回れないわ!あくまで攻撃特化なのを忘れないで!」
ノスタルジアの言葉にキリコは頷いた。
「わかってるわ!さすがにあたいでもあの一撃を食らったら無事では済まないわね!行くわよ!!」
ワニの横腹に槍を突き放つ。
しかしまるで分厚い鉄板を突いたように刃先が震え弾かれた。
「ちょ、いくらなんでも堅すぎじゃない!?ノスタルジアの槍でも貫けないなんて…!」
ワニの尻尾がキリコを襲う。
それを跳躍でかわし間合いを取る。
「でかいくせに速いわ!攻撃も効かない上に素早いなんて反則だわね!」
「キリコ!いくらなんでも皮膚がこんなに堅いわけないわ!きっと他に弱点はあるはずよ!」
「シュクレン!起きろ!シュクレン!」
クロウはシュクレンの上を飛び回るが動く事はなかった。
意識は知らないどこかにあった。
公園に佇み柔らかな陽射しを受けていた。どこか心地の良い世界。
「ねぇ、このトカゲ弱ってるよ!」
子供の声に振り向くと小さなワニを指でつまんでいた。それを自慢げに両手で包むとシュクレンの目の前を走っていく。
(助けて…死にたくない…)
「これは…あのワニの思念?」
シュクレンは駆けていく子供を追いかける。
「君の名前はジャック!僕の友達だよ!」
子供はワニを小さな水槽に入れた。
(ジャック…ぼくの名前…ありがとう)
子供はワニに餌を与えて育てようとした。餌を与え体を触られたりしたらワニは心地よくて嬉しかった。
しかしそういう日々は長く続かなかった。
「なにこれ!?どこで拾ってきたの!?」
母親がワニの水槽を見つけ出した。
「ジャックを飼ってもいいでしょ!?責任持って育てるよ!」
子供が懇願するも母親は怪訝な表情を浮かべている。
「あなたこれトカゲじゃないのよ!?ワニよ!ワニ!!大きくなって人を襲うのよ!」
「え?」
その瞬間からワニを見る子供の目が変わる。
「な~んだ…トカゲじゃないんだ…」
子供はワニの体を乱暴につまむ。
(え?何をするの?)
「大きくなったら飼えないし、もう要らない」
そのままトイレに落とした。
(この場所狭いよ…)
「バイバイ…ジャック…」
そしてレバーを上げると激しい水流と共にワニは吸い込まれていく。
そのまま下水道に流れ落ち、そのショックでワニは死んでしまった。
(棄てられた…)
その魂は下水道に長く留まりくすぶり続けた。
憎悪と共に体が大きくなり、水の汚れに伴って心も濁り魂は不浄化した。
(憎い…憎い…憎い!!棄てられた…捨てられた!!)
目を開けるとクロウが覗きこんでいた。
「ふぅ…目を覚ましたか。大丈夫か?」
「うん…夢見てた…」
「夢だと?お前が?」
「…あの不浄は可哀想…」
シュクレンはゆっくり起き上がると右手を差し出す。
「クロウ!」
クロウが飛び上がると右手に留まり黒い光と共に大鎌に変化する。
「ジャック…絶望の果てに…不浄となった…可哀想な魂…」
シュクレンは大鎌を構えた。