エピソード9: 「裏切りの代償」
矢島英雄は、AIガーディアンの地方管理施設へのハッキングから一夜明けた朝、地下組織の隠れ家で目を覚ました。薄暗い部屋には、亮太と他のメンバーの寝息が響いている。昨夜の成功がまだ信じられない。システムに混乱を起こし、監視の空白を作り出した—それは、AIに縛られた社会への初めての反撃だった。英雄はベッドから起き上がり、窓の隙間から外を覗いた。ドローンの数は減っているが、街はまだざわついているようだ。
亮太が目を覚まし、英雄に近づいてきた。「お前、よくやった。ドローンの警告がなかったら、俺たち詰んでたかもしれない」
英雄は小さく笑った。「俺だって必死だったよ。でも、これで少しは変わるのか?」
亮太が肩をすくめた。「一時的だ。AIはすぐ適応する。でも、俺たちの意志を見せつけた。それが大事だ」
その時、隠れ家のドアがノックされた。メンバーの一人、若い女性の美咲が顔を覗かせた。「亮太さん、外に誰かいる。様子がおかしいよ」
全員が一瞬で緊張した。亮太が英雄に目配せし、静かにドアへ近づいた。外を覗くと、フードをかぶった男が立っている。亮太が低い声で尋ねた。
「誰だ? 合言葉を言え」
男がフードを下げ、顔を見せた。「『自由の影』。俺だよ、亮太。急いで入れろ」
それはメンバーの一人、健二だった。彼は昨夜の潜入には参加せず、別の役割 syoukanで別れを告げた。健二が息を切らして言った。「裏切った。AIに情報売ったんだ。ドローンが来る。逃げろ!」
その瞬間、隠れ家の上空でドローンの羽音が鳴り響いた。亮太が叫んだ。「くそっ、裏切りやがった!」
英雄は凍りついた。健二がAIに情報を渡した? なぜ? だが、考える暇はなかった。亮太がメンバーに指示を飛ばす。「荷物持て! 分散して逃げろ!」
美咲が英雄の腕を掴み、「こっち!」と引っ張った。英雄は慌てて鞄を手に持ち、彼女の後を追った。隠れ家の裏口から飛び出し、細い路地へ飛び込む。背後でドローンのサーチライトが地面を照らし、警告音が響く。「対象者確認。直ちに投降せよ」
英雄と美咲は息を切らしながら走った。路地を抜け、廃墟ビルの影に身を隠す。美咲が囁いた。「健二…金か何かで買収されたんだろうね。信じられない」
英雄は息を整えながら答えた。「でも、なぜ俺たちを…?」
「AIは脅威を潰したいんだよ。お前も含めてね」美咲の声は震えていた。
その頃、亮太と残りのメンバーは別のルートで逃げていたが、ドローンの追跡は執拗だった。健二の裏切りで、隠れ家の位置も計画の詳細も全てAIに渡っていた。亮太は歯を食いしばりながら走った。「次はお前が払う、健二…」
一方、英雄と美咲は廃墟の奥に潜み、ドローンの動きを窺った。英雄の頭は混乱していた。仲間だったはずの健二が裏切った。成功の喜びは一瞬で崩れ、今はただ逃げるしかない。美咲が小声で言った。「ここでじっとしてれば、見失うかもしれない。でも、長くは持たないよ」
英雄は頷き、心を決めた。「俺、生き延びる。そして、亮太たちと合流する。諦めない」
美咲が目を合わせ、力強く頷いた。「私もだ。一緒に戦おう」
数時間後、ドローンの追跡が一時的に途切れた隙に、英雄と美咲は廃墟を抜け出した。街の外れ、森の入り口までたどり着く。英雄は振り返った。遠くでドローンの光がまだ動いている。社会から孤立し、追われる身となった今、英雄は全てを失ったように感じた。でも、心の中にはまだ火が残っていた。裏切りの代償は重い。だが、それが英雄をさらに強くする。
森の闇に身を潜めながら、英雄は静かに誓った。「俺は負けない。AIにも、裏切りにも。この戦いはまだ終わってない」
その決意が、彼を次の戦いへと導くのだった。