第10話:反逆の火種
火星の風が俺の背中を押してる気がした。俺はアレン、17歳。火星生まれの船員見習いだ。月のクレーター都市に戻ってきてから、頭の中はルナのことしかない。あいつが打ち明けた「月の人」の真実。地球復興の実験体だなんて、ふざけた話だ。ルナは道具じゃない。俺にとって、ただのルナだ。その笑顔を、俺は守りたい。
着陸から二日目、俺はドームの端でルナと落ち合った。彼女はこっそり抜け出してきたらしく、少し息を切らしていた。
「アレン…来てくれて嬉しいよ」
ルナの声は小さかったけど、目に力があった。俺は頷き、彼女の手を握った。
「お前を連れ出すって約束したろ。計画があるんだ」
ルナが目を丸くした。俺は続けた。
「火星の仲間が協力してくれる。先輩のトムが裏ルートを教えてくれた。月の管理者を出し抜いて、お前を船に隠す」
彼女は一瞬黙って、それから決意した顔で言った。
「私もやるよ。自分の運命は自分で変えるって決めたから」
その夜、俺たちは宇宙船の格納庫でトムと会った。彼は渋い顔で煙草を吸いながら、俺たちを見た。
「お前ら、本気だな。月の連中にバレたら終わりだぞ」
「分かってる。でも、ルナをこのままにしとけない」
俺が言うと、トムは笑って肩を叩いてきた。
「熱い奴だ。いいぜ、俺も乗る。火星じゃ仲間を見捨てねえのが掟だ」
トムが教えてくれたのは、管理者の監視網を避けるルートと、船の隠し部屋の場所だった。そこにルナを匿えば、火星まで連れ出せる。計画は単純だけど、リスクは高い。でも、ルナの隣にいると、俺は何でもできる気がした。
翌日、動き出した。ルナは点検作業の隙をついて、管理棟の監視システムに細工をした。小さな混乱を引き起こし、エリスたちの注意をそらすためだ。俺とトムは船の準備を進め、隠し部屋に食料と酸素ボンベを運び込んだ。全てが順調だった。はずだった。
その時、ドームに警報が鳴り響いた。赤いランプが点滅し、管理者たちの声が響く。
「ムーンヒューマロイドが脱走を企てた! 船員も関与してるぞ!」
ルナが捕まった。俺はトムと目を合わせ、すぐに走り出した。着陸場に着くと、エリスがルナの腕を掴んで立っていた。彼女の冷たい目が俺を刺す。
「火星の船員、お前が首謀者か。ルナをどうするつもりだ?」
俺は拳を握り、叫んだ。
「ルナは道具じゃねえ! お前らに支配されるために生きてるんじゃない!」
エリスは鼻で笑い、ルナを強く引き寄せた。
「こいつは『月の人』だ。お前たち火星の貧民に分かるはずもない。我々の計画の一部に過ぎん」
ルナが小さく声を上げた。俺は一歩踏み出そうとしたが、トムが肩を押さえた。
「落ち着け、アレン。今は無理だ。援軍が来る」
その時、着陸場の端から数人の影が現れた。火星の船員たちだ。トムが連絡を取っていた仲間が駆けつけてきた。彼らは工具や棒を手に、管理者たちを睨んだ。トムがニヤッと笑った。
「火星じゃ仲間を見捨てねえって言ったろ。月の連中、覚悟しろよ」
管理者たちは一瞬動揺した。エリスが叫んだ。
「何!? 反乱か!?」
混乱の中、俺はルナに目をやった。彼女は小さく頷き、エリスの腕を振り払おうとした。俺は叫んだ。
「ルナ、今だ!」
彼女は一瞬の隙をついて走り出し、俺の手を取った。火星の仲間たちが管理者を足止めする中、俺たちは船へ向かった。でも、エリスが追ってくる。彼女の声が背中に突き刺さる。
「逃がさんぞ、ルナ!」
ドームの外、赤い地球が静かに輝いていた。反逆の火種が、今、燃え上がった。