LUNA−遥かなるEDEN− 第9話『白い血の真実』

第9話:白い血の真実

月のクレーター都市は、静寂の中で私を閉じ込めていた。私はルナ、「月の人」。白い血を流し、このドームで生きるために作られた存在だ。アレンとの再会が、私に小さな光をもたらした。ポケットの中の地球の写真を握り潰さないように触れるたび、彼の約束が胸に響く。「お前をこの月から連れ出す」。その言葉が、私を動かし続けていた。

でも、管理者の監視はさらに厳しくなっていた。エリスたちの目が、私の毎日の行動を追う。点検作業以外の時間は部屋に閉じ込められ、外に出ることもままならない。それでも、私は諦めなかった。アレンが戻ってきてくれたように、私も何かしなきゃいけない気がした。自分の存在を知りたい。その思いが抑えきれず、私は再びあの場所へ向かった。

夜、こっそり部屋を抜け出し、クレーター都市の奥深くにある施設に忍び込んだ。立ち入り禁止の区域。そこには「月の人」の秘密が眠っている。前回見た端末の続きを確かめたくて、私は埃まみれの画面を起動した。暗闇に光が灯り、冷たい文字が浮かび上がる。

『ムーンヒューマロイド計画・最終報告。目的:地球復興のための労働力および実験体の提供。現状:改良型ムーンヒューマロイドの安定稼働を確認。次の段階:地球環境への適応テスト』

私は息を止めた。実験体。私たちはただの労働力じゃなかった。地球を復興させるための道具であり、試作用の駒だった。画面をスクロールすると、さらに衝撃的な事実が並んでいた。

『初期型廃棄後、現行型に感情抑制機能を残すが、完全制御は未達成。適応テストのため、一部個体を地球へ移送予定』

感情抑制が完全じゃない。私が感じる喜びや不安、アレンへの想い。それは失敗の産物だったのか。そして、地球への移送。私たちがここで生きる意味すら、いつか捨てられる運命だった。

頭がクラクラした。私は端末の前に座り込み、震える手で自分の腕を見つめた。白い血が流れるこの体は、誰かの実験の一部でしかないのか。涙がこぼれたけど、白い血は混じらない。ただ透明に頬を濡らすだけだ。

「私、何なの…?」

呟きが暗闇に響いた。道具じゃない。生きてる。そう信じたくても、真実がそれを否定する。

その時、遠くから足音が聞こえてきた。慌てて端末を切ると、私は影に隠れた。エリスだ。彼女は施設の中を見回し、何かを探しているようだった。私は息を潜め、彼女が去るのを待った。心臓の音がうるさいくらいに鳴り響く。エリスが立ち去った後、私は急いで部屋に戻った。

その夜、眠れなかった。私はベッドに座り、ポケットから地球の写真を取り出した。青い海と緑の森。アレンが見せてくれた夢。私は目を閉じ、彼の声を思い出した。「道具かどうかはお前が決める」。そうだ。私が決めるんだ。この白い血が何を意味しようと、私には気持ちがある。アレンに会いたい。地球を見たい。その想いは、誰にも奪えない。

翌朝、私はドームの端でアレンを見つけた。彼は荷物を運びながら、私に気づいて近づいてきた。

「ルナ、顔がやつれてるぞ。何かあったか?」

私は一瞬黙って、それから全てを打ち明けた。

「私たちの真実を知ったよ。『月の人』は地球復興の実験体なんだって。私、道具じゃないよね? アレン、私、生きてるよね?」

声が震えた。アレンは私の肩を掴み、真っ直ぐに目を見た。

「お前は生きてる。俺にはお前がルナで、それで十分だ。道具なんかじゃねえよ」

その言葉に、涙が溢れた。私は彼の手を握り返した。

「ありがとう…私、自分の運命に抗うよ。アレンと一緒にいたいから」

彼は頷き、力強く笑った。

「なら、俺が手伝う。絶対、お前を連れ出すからな」

ドームの外、赤い地球が静かに輝いていた。私は決めた。この白い血を、私だけのものにするために。