第8話:再会の光
月のクレーター都市は、静かすぎて息が詰まりそうだった。私はルナ、「月の人」。白い血を流し、このドームの中で生きるために作られた存在。アレンが火星へ戻ってから、何日経っただろう。毎晩、ドームの端で赤い地球を見上げながら、彼の約束を思い出す。「また会えるさ」。その言葉だけが、私を支えていた。
管理者の監視は日に日に厳しくなっていた。エリスたちの目が、私の行動を逐一追っている。宇宙船に忍び込んだことがバレて以来、私は自由を奪われ、点検作業以外の時間は部屋に閉じ込められている。それでも、アレンとの思い出が頭から離れない。火星の風の話、地球の写真。あの夜、危機を乗り越えた時の彼の手の温かさ。私の白い血には感じるはずのない熱が、心に残っていた。
ある朝、ドームに着陸音が響いた。火星からの物資輸送船だ。私は部屋の小さな窓から、それを見下ろした。アレンがいるかもしれない。胸がざわついて、いてもたってもいられなかった。管理者に隠れて外に出るのは危険だけど、もう我慢できなかった。点検用の工具箱を手に持つふりをして、私はドームの端へ向かった。
着陸場に着くと、船員たちが忙しく荷物を運び出していた。その中に、アレンの姿を見つけた。乱れた黒髪と、作業着の袖をまくった腕。彼は荷物を肩に担ぎながら、周りを見回していた。私と目が合った瞬間、彼の顔が明るくなった。
「お前、無事だったか!」
アレンが駆け寄ってきて、小声で言った。私は周りを気にしながら頷いた。
「うん。でも、管理者が厳しくて…もう会えないかと思った」
彼は少し眉を寄せ、それからニヤッと笑った。
「そんな簡単に諦める俺じゃねえよ。こっち来い、隠れるぞ」
アレンは私の手を引いて、宇宙船の影に連れていった。そこは着陸場の死角で、管理者の目が届かない場所だった。私たちはコンテナの間に座り、息を潜めた。
「火星、どうだった?」
私が聞くと、アレンは目を細めて答えた。
「相変わらず荒々しいよ。砂嵐が吹いて、毎日が戦いだ。でも、お前を思い出すと、少し楽になった」
その言葉に、私の胸が温かくなった。私は小さく笑って言った。
「私もだよ。アレンのこと考えると、この静かな月が少し我慢できる」
アレンはポケットから地球の写真を取り出し、私に渡した。
「これ、持ってろ。お前が地球に憧れてるって言ったからさ」
私は写真を受け取り、青い海と緑の森を見つめた。
「ありがとう…私、これ見て頑張る。アレンとまた地球を見たいから」
彼は頷き、軽く私の肩を叩いた。
「約束だぜ。いつか一緒に見に行こう」
その時、遠くから足音が聞こえてきた。エリスだ。アレンが素早く写真を私のポケットに押し込み、立ち上がった。
「隠れとけ。俺が気を引くから」
「でも…!」
私が止めようとしたけど、彼はもうコンテナの外に出ていた。エリスの声が響く。
「火星の船員、ここで何してる?」
「ただ休憩だよ。何か問題か?」
アレンの声は落ち着いてた。私はコンテナの隙間から、彼がエリスと向き合う姿を見た。彼女は疑うような目でアレンを睨み、それから私の方をちらっと見た。心臓が跳ねたけど、アレンが体で視線を遮ってくれた。
エリスが去った後、私たちは再び並んで座った。ドームの外、赤い地球が静かに輝いていた。アレンが呟いた。
「次はもっとうまくやる。ルナ、お前をこの月から連れ出すからな」
私は頷き、彼の手をそっと握った。
「うん。待ってるよ、アレン」
その光が、私たちの再会の証だった。