第7話:火星の風
火星の風は容赦ない。赤い砂を巻き上げ、視界を奪う。俺はアレン、17歳。火星生まれの船員見習いだ。月のクレーター都市から戻って一週間、俺はまたこの荒々しい星で汗を流してる。宇宙船の荷下ろしを終え、家族が待つ小さな住居に帰ると、母さんが硬いパンをテーブルに置いた。
「アレン、月はどうだった?」
母さんの声は疲れてるけど優しい。俺はパンをかじりながら答えた。
「静かすぎて落ち着かなかったよ。火星の方が生きてる感じがする」
父さんが笑って、背中を叩いてきた。
「それが俺たちの星だ。地球人の血が騒ぐんだろ」
地球人の祖父母から受け継いだ赤い血。俺はその血が、どこか遠くへ俺を駆り立ててる気がする。
昼間は鉱石採掘の手伝い、夜は船の整備。火星の生活は過酷で、休む暇もない。でも、頭の中はルナのことで埋まってる。あいつの暗い顔と、小さな笑顔。月の管理者に引き離された時、俺は何もできなかった。あの無力感が、砂嵐みたいに心をかき乱す。
「お前と会うために戻ってくる」。そう約束したのに、火星に戻った今、どうやってそれを実現するのか分からない。月の連中はルナを道具扱いしてる。あいつをそんな目で見る奴らに、俺は腹が立つ。
ある夜、作業場の片隅で、俺はポケットから地球の写真を取り出した。青い海と緑の森。ルナに見せた時、彼女の目が輝いたのを思い出す。火星じゃこんな景色は夢物語だ。砂と岩しかないこの星で、俺は生きてる実感を感じてるけど、ルナにはそれが分からないって言ってた。なら、俺が教えてやるしかない。あいつをこの赤い風の中に連れてきて、生きるって何かを一緒に感じたい。
次の日、先輩船員のトムと酒を飲んだ。月の物資輸送の話を振ると、彼は渋い顔で言った。
「月の管理者、あいつら厳しくなってるぞ。最近、船員と『月の人』の接触を禁止する通達が出た。次行っても自由には動けねえよ」
俺は拳を握った。ルナに会えないなんてありえない。
「じゃあ、どうすりゃいい? 俺、約束したんだ。あいつにまた会うって」
トムは少し黙ってから、ニヤッと笑った。
「お前、熱いな。なら、裏ルートを使うしかねえ。俺が知ってる抜け道がある。次行く時、教えてやるよ」
その言葉に、俺の胸が少し軽くなった。ルナに会う方法があるなら、どんなリスクでも背負う。
その夜、砂嵐が住居の壁を叩く中、俺はベッドに横になった。目を閉じると、ルナの声が聞こえてくる気がする。「アレンとなら、どこでも行ける気がする」。あの言葉が、俺を動かす。火星の風が吹き荒れるこの星で、俺は決意した。次は絶対、ルナを連れ出す。月の冷たいドームから、赤い風の吹く世界へ。
「待ってろよ、ルナ」
呟いた声は、風に紛れて消えた。赤い空の向こうに、ルナがいる月が見えた気がした。