LUNA−遥かなるEDEN− 第6話『月の監視者』

第6話:月の監視者

月のクレーター都市は、いつもと変わらない静寂に包まれていた。でも、私の心の中は昨夜の宇宙船での出来事でざわついている。私はルナ、「月の人」。白い血を流し、この冷たいドームの中で生きるために作られた存在だ。アレンと過ごした夜、危機を乗り越えたあの瞬間が、初めて私の胸に温かい何かをもたらした。赤い地球を見上げながら、彼とならどこでも行ける気がしたなんて、夢みたいなことを考えてしまった。

朝の点検作業を終え、私はドームの端に足を向けた。アレンに会いたい。火星の話をまた聞きたい。そんな気持ちが抑えきれなかった。でも、その一歩を踏み出した瞬間、背後に重い気配を感じた。

「ルナ、またそこへ行くつもりか?」

振り返ると、エリスが立っていた。月の管理者。彼女の鋭い目が私を貫く。私は言葉に詰まりながら答えた。

「ただ、散歩です。点検の疲れを癒しに…」

嘘が下手なのは自分でも分かってる。エリスは一歩近づき、低い声で言った。

「癒し? 火星の船員と接触してることは、もう隠せないぞ。お前が宇宙船に忍び込んだ記録が残ってる」

心臓が止まりそうになった。昨夜のことがバレてる。アレンと過ごした時間が、こんな形で裏切るとは。

「それは…ただ、話してただけです。悪いことじゃないですよね?」

私の声は震えていた。エリスは冷たく笑い、腕を掴んできた。

「悪いかどうかは私が決める。お前には自由はない。『月の人』としての役割を果たせ。それ以外は許さん」

その日の午後、私は管理棟に呼び出された。狭い部屋で、エリスと他の管理者が私を見下ろしている。彼らの話は冷酷だった。

「ルナ、お前と火星船員の接触は月の秩序を乱す。次に同じことがあれば、隔離施設行きだ。分かるな?」

私は頷くしかなかった。頭の中ではアレンの笑顔が浮かんで、胸が締め付けられる。もう会えないかもしれない。そんな恐怖が広がった。

夕方、ドームの端でアレンを見つけた。彼は荷物を整理しながら、火星へ戻る準備をしていた。私は勇気を振り絞って近づいた。

「アレン…もうすぐ帰るんだね」

彼は振り返り、少し驚いた顔をした後、笑った。

「ああ、明日には出発だ。お前、また暗い顔してるぞ。何かあったか?」

私は目を逸らし、小さな声で言った。

「管理者にバレたよ。私たちが会ってたこと。もう会わない方がいいって…」

アレンの表情が一瞬固まった。でも、彼はすぐに肩をすくめて言った。

「そんなの気にすんなよ。また会えるさ。俺、火星から戻ってくるから」

その言葉に、私は無理やり笑った。

「うん…でも、私、怖いよ。アレンと離れるのが」

初めて自分の気持ちを口にした。アレンは少し黙ってから、私の肩に手を置いた。

「怖がるな、ルナ。俺はお前と会うために戻ってくる。それでいいだろ?」

その時、遠くから足音が近づいてきた。エリスだ。彼女の冷たい視線が私たちを捉える。私は慌ててアレンから離れた。

「ルナ、こっちへ来い。今すぐだ」

エリスの声に逆らう勇気はなかった。私はアレンに目をやり、小さく呟いた。

「またね、アレン」

彼は頷き、軽く手を振った。

「またな、ルナ。待ってろよ」

エリスに連れられながら、私は振り返った。アレンの姿が小さくなり、宇宙船の影に消えていく。ドームの外では、赤い地球が静かに輝いていた。私とアレンを引き離すように。その夜、私は眠れなかった。彼との約束が、私の心に小さな希望と大きな不安を残していた。