LUNA−遥かなるEDEN− 第5話『宇宙船の夜』

第5話:宇宙船の夜

火星の砂嵐が恋しくなるくらい、月の静けさは俺を落ち着かなくさせる。俺はアレン、17歳。火星生まれの船員見習いだ。月のクレーター都市での荷下ろしも終盤に差し掛かり、あと数日で火星へ戻る予定だった。でも、頭の中はルナのことでいっぱいだ。あいつの暗い顔と、地球に憧れる瞳が忘れられない。

その日、作業が一段落した夕方、俺はドームの端でルナを見つけた。彼女はいつものように赤い地球を見上げていて、どこか寂しそうだった。

「お前、また地球見てんのか?」

声をかけたら、ルナは少し驚いた顔で振り返った。でも、すぐに小さく笑った。

「うん。アレンも見に来たの?」

「まあな。ついでにお前を誘おうと思ってさ。宇宙船、見てくか?」

ルナの目が一瞬光った。彼女は頷き、俺の後ろをついてきた。

宇宙船の格納庫はドームの外縁にあって、普段は船員以外立ち入り禁止だ。でも、見習いの俺がちょっとした抜け道を知ってる。ルナを連れて船に忍び込むと、彼女は目を丸くして辺りを見回した。

「すごい…これで火星まで行くんだね」

錆びた船体と狭い通路しかない貨物船に、ルナは素直に感動してるみたいだった。俺は操縦室に彼女を案内し、コックピットの窓から外を見せた。赤い地球が、いつもより近くに感じる。

「ここから見ると、ちょっとだけ地球が生きてるみたいだろ」

俺が言うと、ルナは窓に手を当てて呟いた。

「うん。…私、昨日、自分のことが分からなくなってた。でも、アレンに会ったら少し楽になったよ」

その言葉に、俺は少し照れた。火星じゃこんな優しい会話なんてしない。ルナと話すと、俺まで何か変わりそうになる。

そのまま二人で操縦室に座り込んで、俺は火星の話を始めた。砂嵐の中での生活、家族が作る硬いパンの味、星が見えない夜のこと。ルナは目を輝かせて聞いてた。

「火星って、生きてる実感があるんだね。私にはまだ分からないけど、聞いてると行ってみたくなる」

「なら、いつか連れてってやるよ。砂嵐に文句言うお前が見たい」

俺が笑うと、ルナも笑った。その笑顔が、月の冷たい光の中で妙に暖かく見えた。

でも、その時だった。船の警報が突然鳴り響いた。赤いランプが点滅し、操縦盤にエラーメッセージが表示される。

「何だこれ!?」

俺は慌てて立ち上がり、状況を確認した。どうやら酸素供給システムに異常が起きたらしい。船内の空気が薄くなり始め、息が少し苦しくなる。ルナも顔をしかめた。

「アレン、どうしよう?」

「落ち着け。俺が直すから、お前はここにいろ」

俺は工具箱を引っ張り出し、配線をいじり始めた。見習いでも基本的な修理は叩き込まれてる。でも、手が震えた。ルナがいるってだけで、いつもより焦る。

「アレン、大丈夫?」

ルナが近くに来て、俺の肩に手を置いた。その声が落ち着かせてくれた。

「大丈夫だ。お前がいてくれるなら、なんとかなる」

俺は配線を繋ぎ直し、スイッチを入れた。やっと警報が止まり、空気が戻ってきた。二人は息をついて、その場にへたり込んだ。

「びっくりした…」

ルナが笑うと、俺もつられて笑った。

「火星じゃ日常茶飯事だよ。慣れろ」

その夜、俺たちは操縦室で並んで座ったまま、赤い地球を見上げた。危機を乗り越えた後だからか、ルナの隣がいつもより近く感じた。

「また会おうな、ルナ」

「うん。アレンとなら、どこでも行ける気がする」

彼女の言葉に、俺は初めて火星以外の未来を想像した。