LUNA−遥かなるEDEN−第2話『赤い星の少年』

第2話:赤い星の少年

火星の空はいつも赤い。砂嵐が吹き荒れるたび、空気は鉄の匂いを帯びて肺にまとわりつく。俺の名前はアレン。17歳。火星生まれの船員見習いだ。祖父母は地球人で、両親は火星の開拓者。赤い血が流れる俺は、月の白い血の連中とは違う。だけど、こうやって物資を運んで月へ行くのが仕事だ。

今日も宇宙船の貨物室で荷物を仕分けながら、俺は汗を拭った。火星の鉱石や食料が詰まったコンテナを一つ一つ確認する単調な作業。見習いだからって楽はできない。先輩船員の罵声が飛ぶ中、俺は黙々と手を動かした。火星じゃ誰もが必死だ。生きるため、家族を養うため。俺も同じだ。

着陸から一日が経ち、俺たちは月のクレーター都市で荷下ろしを続けていた。ドームの中は静かで、火星の喧騒とはまるで別世界。空気が薄くても平気な「月の人」たちが、整然と働いているのが見える。あいつらを見ると、いつも不思議な気分になる。人間なのに、どこか人間じゃないみたいだ。

作業の合間に少し息をつこうと、俺はドームの端に腰を下ろした。目の前には赤い地球が浮かんでいる。祖父母が話してくれた青い星の姿は、もうどこにもない。それでも、俺はその残像を追いかけてるのかもしれない。

「お前、またここにいるんだ?」

聞き慣れない声に顔を上げると、あの女の子が立っていた。昨日出会った、ルナって名前の「月の人」。白い髪がドームの光に映えて、ちょっと眩しい。俺は立ち上がり、軽く笑った。

「仕事の合間だよ。お前こそ、何でここに?」

ルナは少し目を逸らして言った。

「点検の帰り。…昨日のお前が気になって」

「俺が?」

意外な言葉に俺は目を丸くした。ルナは頷いて、ちょっと恥ずかしそうに続けた。

「その、地球の写真。あれ、もう一回見せてくれない?」

俺はポケットから写真を取り出し、ルナに渡した。彼女はそれを手に持って、じっと見つめた。青い海と緑の森。火星じゃ夢みたいな光景だ。

「火星ってどんなとこ?」

ルナが写真を見ながら聞いてきた。俺は少し考えてから答えた。

「赤くて、荒々しい。風が強くて、砂が全部を覆う。けど、生きてるって実感はあるよ。月みたいに静かじゃない」

ルナは目を上げて俺を見た。その瞳に、初めて会った時とは違う光があった。

「生きてる実感か…。私にはよく分からないや」

彼女の声は小さくて、どこか寂しそうだった。

その時、先輩船員の怒鳴り声が遠くから響いてきた。

「アレン、さぼってんじゃねえ!」

俺は舌打ちして立ち上がった。

「悪い、呼ばれてる。また会えたら、もっと話してやるよ」

ルナは写真を返しながら小さく笑った。

「うん。待ってる」

俺は荷物の山に戻りながら、なぜかルナの笑顔が頭に残った。火星じゃ見ない、静かで柔らかい笑顔。あいつと話すと、赤い星の喧騒が少し遠く感じる。次に会う時、俺はもっと火星のことを話してやろうと思った。ルナが知らない「生きてる実感」を、ちゃんと伝えられるように。