第22話:未来の約束
数馬英人はゼルを背負い、仲間たちと共に廃墟の街を後にしていた。朝陽が地平線を照らし、焼け焦げた大地に新しい光が広がっている。拓也、彩花、佐藤、美咲が並んで歩き、それぞれの瞳に希望と疲れが混じっていた。ゼルの呼吸は穏やかで、彼女の小さな手が数馬の肩にそっと触れていた。
「お前、重くねぇか?」
数馬が笑いながら呟くと、ゼルが弱々しく答えた。
「……私……軽い……お前……強い……」
その声に、数馬が笑顔を広げた。
「そりゃ良かった。ずっと背負っててやるよ」
一行が街の外れにたどり着くと、遠くに自衛隊のトラックが見えた。佐藤が目を細め、言った。
「残党だな。生き残りが集まってるみたいだ」
美咲が頷き、設計図を手に提案した。
「ゼルのコア技術を解析できれば、エネルギー供給に使えるかもしれないわ。復興の第一歩にしよう」
彩花が笑顔で言った。
「家族がそこにいるかもしれないね。私、頑張るよ」
拓也がバールを肩に担ぎ、呟いた。
「……まぁ、やってみるか。俺も何か役に立つならな」
数馬がゼルを地面に下ろし、仲間たちを見回した。
「俺たちはここで勝った。でも、これからが本番だ。未来を取り戻すんだ」
ゼルが数馬の手を握り、小さく頷いた。
「……私……償う……父の……遺志……お前と……」
その言葉に、数馬が彼女の頭を軽く撫でた。
「ああ、一緒にな。お前はもう一人じゃねぇよ」
自衛隊のトラックが近づき、迷彩服の男が降りてきた。彼が一行を見て、驚いた声で言った。
「お前ら、生きてたのか!あの化け物はどうなった?」
佐藤が前に出て、答えた。
「終わった。こいつが倒したんだ」
彼が数馬を指すと、男が目を丸くした。
「マジか……なら、こっちに来い。生存者が集まってて、街を立て直す計画を立ててる」
数馬がゼルを背負い直し、頷いた。
「分かった。俺たちも手伝うよ」
一行がトラックに乗り込み、生存者の拠点へ向かった。そこには、疲れ果てた人々が集まり、食料や水を分け合っていた。子供の泣き声、大人の呟きが響き、数馬は胸が締め付けられる思いだった。
「これが……俺たちのスタートか」
ゼルが数馬の背中で呟いた。
「……私……沢山……壊した……でも……これから……作る……」
数馬が笑い、言った。
「そうだ。お前と俺で、未来を作り直すんだ」
拠点で、数馬たちは自衛隊員や生存者と話し合った。美咲がゼルの技術を説明し、エネルギー供給の可能性を示すと、皆が希望に目を輝かせた。佐藤が復興計画を提案し、拓也が渋々ながらも物資運びを手伝った。彩花は子供たちと遊び、彼らに笑顔を届けていた。
その夜、数馬とゼルは拠点の外で星空を見上げた。ゼルの身体はまだ弱く、布にくるまって座っていた。
「……お前……私を……信じた……何で……?」
彼女の問いに、数馬が星を見ながら答えた。
「お前の瞳だ。あの中に、殺戮じゃねぇ光があった。科学者の娘として生きようとする意志がな」
ゼルが小さく微笑み、数馬の手を握った。
「……私……嬉しい……お前……父の……代わり……?」
数馬が笑い、首を振った。
「代わりじゃねぇよ。俺は俺だ。お前と一緒に新しい家族を作るんだ」
ゼルの瞳に涙が浮かび、彼女が初めて力強い声で言った。
「……私……生きる……お前と……未来を……約束……」
数馬が頷き、彼女の肩を抱いた。
「ああ、約束だ。絶対に守る」
星空の下、二人の影が寄り添い、静かな夜が流れた。
翌朝、拠点は動き始めていた。生存者たちが瓦礫を片付け、新しい家を建てる計画を立てていた。数馬とゼルは仲間たちと共に働き、未来への第一歩を刻んでいった。拓也が数馬に近づき、小さく呟いた。
「……お前、やっぱりすげぇよ。俺、少しだけ信じるわ」
数馬が笑い、拓也の肩を叩いた。
「お前もな。相棒だろ」
ゼルが立ち上がり、子供たちに囲まれた。彼女が不器用に笑うと、子供たちが歓声を上げた。彩花が涙を拭い、美咲が設計図を手に笑った。佐藤が自衛隊員と握手を交わし、復興が本格的に始まった。
数馬は仲間たちを見渡し、ゼルの手を取った。
「これが俺たちの未来だ。科学者の夢が、ここで叶う」
ゼルが頷き、穏やかな声で言った。
「……父……見てて……私……幸せ……」
朝陽が昇り、新しい一日が始まった。廃墟は徐々に命を取り戻し、数馬とゼル、そして仲間たちの物語は未来へと続いていく。戦いは終わり、約束が果たされ、彼らの新たな夜明けが永遠に輝き始めた。