第23話:未来の果て
数馬英人は朝陽が昇る丘の上に立ち、新しい街を見下ろしていた。あれから3年。廃墟だった大地は、緑と笑顔に溢れる場所へと変わっていた。小さな家々が並び、子供たちが走り回り、風車が静かに回っている。鉄パイプを手に持つことはもうなく、彼の手には木製の杖が握られていた。隣には、ゼルが立っていた。彼女の黒いドレスは白いワンピースに変わり、髪は長く伸び、穏やかな笑みが浮かんでいた。
「……お前……すごい……未来……作った……」
ゼルの声はまだ少しぎこちなかったが、感情がしっかりと込もっていた。数馬が笑い、彼女の肩を抱いた。
「俺一人じゃねぇよ。お前と仲間たちがいたからだ」
街の中心には、復興のシンボルとして建てられた広場があった。そこには、拓也、彩花、佐藤、美咲が集まり、生存者たちと共に働いていた。拓也は大工として家を建て、彩花は学校で子供たちに読み書きを教えていた。佐藤は自衛隊の経験を生かし、街の守りを固め、美咲はゼルの技術を応用したエネルギー装置を開発していた。
「おい、数馬!いつまでボーッとしてんだよ!」
拓也がハンマーを手に笑いながら叫ぶ。数馬が手を振り返し、ゼルと一緒に丘を下りた。
広場に着くと、彩花が子供たちを連れて駆け寄ってきた。
「数馬君、ゼルちゃん!見て、みんなが描いた絵だよ!」
子供たちが持つ紙には、ゼルと数馬が手を取り合う姿が描かれていた。ゼルが目を丸くし、小さく呟いた。
「……私……子供……好き……?」
数馬が笑い、彼女の頭を撫でた。
「好きだろ。お前、よく遊んでやってるじゃねぇか」
ゼルが頷き、子供たちに不器用に手を振った。
その時、美咲がエネルギー装置の設計図を手に近づいてきた。
「数馬君、ゼルのコア技術を解析して、新しい発電所が完成したわ。これで街がもっと広がるよ」
佐藤が頷き、言った。
「周辺の廃墟にも生存者が増えてきた。俺たちが守るべきものが増えたな」
数馬が仲間たちを見回し、言った。
「みんな、ありがとう。ここまで来れたのは、お前らのおかげだ」
拓也が照れ臭そうに笑い、呟いた。
「まぁ、お前がリーダーだったからな。俺も少しは認めるよ」
ゼルが数馬の手を握り、静かに言った。
「……私……償う……父の……遺志……ここで……叶った……?」
数馬が彼女を見下ろし、頷いた。
「ああ、叶ったよ。科学者の夢は、お前が未来を救うことだった。お前はそれを超えた。新しい世界を作ったんだ」
ゼルの瞳に涙が浮かび、彼女が微笑んだ。
「……私……幸せ……お前と……家族……」
その夜、街では小さな祭りが開かれた。生存者たちが集まり、火を囲んで歌い、笑い合っていた。数馬とゼルは広場の端に座り、星空を見上げた。
「……お前……私を……信じた……ずっと……何で……?」
ゼルの問いに、数馬が星を見ながら答えた。
「お前の瞳に、希望があったからだ。殺戮じゃねぇ、生きようとする光がな。お前は俺に未来を教えてくれた」
ゼルが数馬に寄りかかり、呟いた。
「……私……お前と……生きる……約束……守る……」
数馬が彼女の手を握り、笑った。
「ああ、俺もだ。永遠にな」
だが、その時、遠くの地平線から奇妙な光が瞬いた。数馬が目を細めると、佐藤が駆け寄ってきた。
「数馬、悪い知らせだ。周辺の廃墟で、妙な動きがある。機械みたいな影が動いてるって報告が……」
美咲が設計図を手に顔を曇らせた。
「ゼルのコア技術が漏れた可能性があるわ。誰かが悪用してるのかも……」
拓也がハンマーを握り、呟いた。
「また戦いかよ。せっかく平和になったのに」
彩花が不安げに言った。
「でも、私たちなら大丈夫だよね?」
数馬が立ち上がり、ゼルを見た。彼女が頷き、力強い声で言った。
「……私……守る……この街……お前と……」
数馬が笑い、仲間たちに言った。
「なら、行くか。俺たちの未来を守るために」
一行は星空の下、新たな挑戦へと歩き出した。ゼルの手を取り、数馬は決意を新たにした。
「未来の果てまで、俺たちは一緒だ」
夜が深まり、街の灯りが静かに輝いた。物語は終わりを迎えたが、彼らの旅はまだ続いていた。新たな夜明けが、未来の果てで待っている。