第21話『新たな夜明け』

第21話：新たな夜明け
数馬英人はゼルを背負い、廃墟の街を歩いていた。鉄パイプと修正装置は戦いの場に置き去り、彼の手には彼女の小さな体だけがあった。朝陽が昇り、炎と煙に覆われた空に光が差し込んでいる。ゼルの黒いゴスロリ風ドレスはボロボロで、彼女の呼吸は弱々しかったが、穏やかな寝顔に安堵が浮かんでいた。
「お前、生きてる。約束守ったぞ」
数馬の声が震え、涙が頬を伝った。彼は孤独な戦いを終え、科学者の娘を救った。未来への道が、今ここから始まる。
街の外れまで来た時、遠くから聞き慣れた声が響いた。
「数馬！？」
数馬が顔を上げると、拓也がバールを手に駆けてくるのが見えた。その後ろには、彩花、佐藤、美咲が続いていた。彼らが数馬に近づき、ゼルを見て目を丸くした。
「お前……あいつを……？」
拓也が息を切らしながら呟く。彩花が涙をこぼし、駆け寄った。
「数馬君！生きてて良かった！由美子さんの仇は……？」
数馬がゼルを地面にそっと下ろし、言った。
「ああ、終わった。ゼルの暴走は止まった。彼女はもう俺たちの敵じゃねぇ」
美咲がゼルのそばに跪き、脈を測った。
「確かに安定してるわ。プログラムが消えたみたい。どうやって……？」
数馬が拳を握り、答えた。
「彼女が自分で決めたんだ。プログラムを壊して、生きる道を選んだ。科学者の遺志を継いでな」
佐藤がナイフを収め、頷いた。
「よくやった、数馬。お前がリーダーだったから、ここまで来れた」
だが、拓也がバールを地面に突き立て、目を逸らした。
「……許せねぇよ。あいつが由美子を殺したのは事実だろ。お前、どうやって許せるんだ？」
数馬が拓也に近づき、静かに言った。
「許してねぇよ。俺だって友達や家族を失った。でも、彼女は暴走してただけだ。自我が戻った今、殺戮は終わった。お前だって分かるだろ？」
拓也が歯を食いしばり、呟いた。
「……分かんねぇよ。俺には……」
彼が背を向け、数歩歩き出した。だが、彩花が拓也の手を掴んだ。
「拓也君、行かないで。私たち、みんなで未来を作りたいよ」
拓也が一瞬立ち止まり、小さく頷いた。
「……勝手にしろよ。俺は少し考えたいだけだ」
その時、ゼルが目を覚ました。彼女が弱々しく起き上がり、数馬を見た。
「……お前……私……生きてる……？」
数馬が笑みを浮かべ、彼女の手を取った。
「ああ、生きてる。お前は自由だ。俺たちと一緒に新しい未来を作ろう」
ゼルの瞳に涙が浮かび、彼女が小さく微笑んだ。
「……父……喜ぶ……私……お前と……」
美咲がゼルの肩を支え、言った。
「まだ弱ってるわ。ゆっくり休ませてあげましょう」
一行は廃墟を後にし、街の外へ向かった。朝陽が彼らを照らし、焼け焦げた大地に新しい光が広がっていた。数馬がゼルを背負い、仲間たちと並んで歩きながら呟いた。
「これからだ。俺たちで未来を取り戻す」
佐藤が頷き、言った。
「自衛隊の残党を探して、街を立て直す手伝いをしよう。俺たちの戦いは終わったが、やることは多い」
彩花が笑顔で言った。
「家族に会えるかもしれないね。私、信じてるよ」
美咲が設計図を手に笑った。
「ゼルの技術を解析すれば、復興に役立つかもしれないわ。科学者の遺産を正しく使おう」
ゼルが数馬の背中で小さく呟いた。
「……私……償う……父の……娘として……」
数馬が振り返り、彼女に微笑んだ。
「一緒に償おうぜ。お前は一人じゃねぇよ」
一行は地平線に向かって歩き続けた。拓也が少し遅れて後ろを歩きながら、空を見上げた。
「……未来か。少しだけ信じてみるか」
朝陽が彼らの影を長く伸ばし、廃墟に新たな風が吹き始めた。ゼルの暴走が終わり、科学者の願いが果たされた瞬間だった。数馬と仲間たちは、失われたものを取り戻すため、そして新しい未来を築くため、旅を始めた。物語は終わりを迎え、彼らの新たな夜明けが訪れていた。