第10話:科学者の遺産
数馬英人は国会の瓦礫に足を踏み入れ、仲間たちと共に黒いゴスロリ風の少女を追った。鉄パイプを手に持つ彼の前では、拓也がバールを握り、彩花が懐中電灯で闇を照らしている。佐藤、美咲、由美子もそれぞれ武器や道具を手に、緊張した面持ちで進む。国会の中はすでに崩壊が進み、壁が崩れ、床に書類が散乱していた。遠くで「トゥインクル♪ トゥインクル♪」と呪文が響き、爆発音が続く。
「おい、数馬。あいつ、どんどん奥に行くぞ。どうすんだ?」
拓也が息を切らしながら尋ねる。数馬は瓦礫を越えながら答えた。
「追うしかねぇ。あの書類の意味が分かれば、止められるかもしれない」
美咲が手に持った「不老不死技術開発計画」の書類を見ながら言った。
「この計画、政治家の名前がずらっと並んでるわ。誰かが裏で動いてたみたいね」
一行が議事堂の奥へ進むと、少女が立っていた。彼女は傘を手に、逃げ惑う政治家たちを次々と膨張させ、破裂させていく。血と肉が飛び散り、叫び声が響く。だが、数馬の目にあるものが飛び込んできた。崩れた壁の向こうに、古びた研究室のような部屋が見えたのだ。
「あれ、何だ!?」
数馬が指さすと、佐藤が目を細めた。
「隠し部屋か?国会にこんな場所があるなんて……」
美咲が頷いた。
「不老不死計画の拠点かもしれない。私たち、こっちを調べるべきよ」
少女が政治家を追ってさらに奥へ進むのを見計らい、数馬たちは研究室へ向かった。部屋の中は埃に覆われ、机には古いコンピューターや書類が散乱している。壁には「プロジェクト・ゼル」と書かれたファイルが貼られていた。
「ゼル……あいつの名前か?」
数馬が呟くと、美咲がファイルを手に取った。
「見て!これ、日記よ。科学者の手記みたい」
彼女がページを開くと、震える声で読み始めた。
「『私は彼女をゼルと名付けた。人工生命体として、未来を救うために生み出した私の最高傑作だ。だが、彼女の使命は重い。一人の政治家が不老不死技術で世界を支配する未来を防ぐため、彼の先祖を抹殺するプログラムを組み込んだ……』」
拓也が目を丸くした。
「何!?未来を救う?あいつが!?」
佐藤が冷静に言った。
「なら、あの政治家狙いは計画通りってわけか。でも、何かおかしいな」
美咲が続きを読んだ。
「『だが、プログラムにバグが生じた。ゼルが自我を持つ前に暴走し、無差別殺戮を始めた。私は止められなかった。私の娘のような存在だったのに……』」
由美子が涙をこぼした。
「娘……あの子、科学者に愛されてたの?」
彩花が震える声で呟いた。
「でも、何で私たちまで……」
数馬は日記を手に取り、最後のページを見た。そこには走り書きでこう書かれていた。
「『ゼルを止めるには、彼女のコアを再起動するしかない。だが、それは私の命と引き換えだ。未来のために、彼女を犠牲にはできない……』」
「コア?再起動?」
数馬が呟くと、美咲がコンピューターに目をやった。
「これかもしれない!」
彼女がキーボードを叩くと、画面にデータが表示された。ゼルの設計図と、エネルギーコアの位置が示されている。
「傘じゃないわ。彼女の胸にあるみたい。そこに動力源が……」
佐藤が頷いた。
「なら、そこを狙えば止まる可能性があるな。だが、どうやって近づく?」
その時、部屋の外で爆発音が響いた。少女が戻ってきたのだ。彼女は血に染まったドレスを揺らし、傘を手に部屋の入り口に立った。「トゥインクル♪ トゥインクル♪」。数馬たちは咄嗟に散ったが、机が膨張し、爆発した。破片が飛び散り、由美子が腕を押さえて倒れた。
「由美子さん!」
彩花が駆け寄る。少女が傘を構え、数馬に向かって歩いてきた。
「待てよ!お前、ゼルだろ!科学者の娘なんだろ!?」
数馬の叫びに、少女の動きが一瞬止まった。彼女の瞳が揺れ、初めて声が漏れた。
「……父……?」
その声は小さく、壊れた機械のようだった。だが、次の瞬間、彼女が傘を振り上げた。「トゥインクル♪ トゥインクル♪」。数馬は鉄パイプで跳ね除けようとしたが、衝撃で吹き飛ばされた。
「数馬!」
拓也が叫び、彼を支える。少女は再び歩き出し、国会の奥へと消えた。
数馬は立ち上がり、肩を押さえた。
「やっぱり……感情がある。あいつ、科学者のことを覚えてるのか?」
美咲が設計図を手に言った。
「コアを再起動すれば、暴走を止められるかもしれない。でも、近づくのが……」
佐藤が決意を込めて言った。
「俺がやる。元自衛隊員として、あいつを止めなきゃならねぇ」
数馬が首を振った。
「いや、俺が行く。あいつの目を見て分かった。止められるのは俺だ」
拓也が笑いもののように言った。
「お前、無茶言うなよ!でも……お前ならできるかもな」
彩花と由美子も頷いた。
数馬は鉄パイプを握り直し、仲間たちを見回した。
「準備しろ。あいつの過去を暴いて、未来を変えるんだ」
爆発音が再び響き、一行はゼルの後を追った。科学者の遺産が、希望か絶望かを決める戦いが始まろうとしていた。