第7話:生存者の集結
数馬英人は路地の奥で膝をつき、肩の痛みを堪えていた。拓也が彼を支え、彩花が涙を拭いながら周囲を見回している。夜が深まり、街は炎と煙に包まれ、遠くで爆発音が断続的に響いていた。あの黒いゴスロリ風の少女が去った後も、恐怖と絶望が三人を支配していた。
「おい、数馬……もう限界だろ。どこ行くんだよ……」
拓也の声は弱々しく、数馬の肩を掴む手にも力がない。彩花が震える声で呟いた。
「家族……お母さんたち、どこにいるんだろう……」
数馬は目を閉じ、深呼吸した。家族の顔が浮かぶ。両親、妹。でも、今はそれを探す余裕すらない。
「分かんねぇ。でも、生きてなきゃ会えねぇよ。動こう」
数馬が立ち上がり、二人を促した。鉄パイプを手に持ったまま、三人は闇の中を歩き出した。
数分後、彼らは廃墟と化したコンビニの前にたどり着いた。ガラスが割れ、棚が倒れているが、奥に明かりが見えた。数馬が近づくと、声が聞こえてきた。
「おい、誰かいるぞ!」
コンビニの裏口から、三人の人影が現れた。一人は迷彩服を着た中年男、もう一人は白衣を羽織った若い女性、最後の一人は買い物袋を抱えた主婦らしき女性だった。迷彩服の男が鉄棒を構えて叫んだ。
「お前ら、何者だ!?」
「落ち着けよ!俺たちも逃げてきただけだ!」
拓也が手を上げて応じ、数馬が前に出た。
「俺たちは学生だ。あの傘の女から逃げてきた」
その言葉に、男が鉄棒を下ろした。
「そうか……なら仲間だ。俺は佐藤、元自衛隊員だ。あの化け物に部隊を全滅させられた」
白衣の女性が続けた。
「私は美咲、医学生よ。避難所で働いてたけど、崩壊して……」
主婦が震える声で言った。
「私は由美子。家族とはぐれて、コンビニに隠れてたの……」
数馬は三人を見回し、頷いた。
「俺は数馬。この二人は拓也と彩花だ。よろしく頼む」
佐藤がコンビニの奥を指し、言った。
「とりあえず中に入れ。ここなら一時的に隠れられる。物資もある」
数馬たちは頷き、コンビニの中へ入った。棚から落ちた食料や水が散らばり、奥の休憩室にはラジオが置かれていた。雑音混じりにニュースが流れている。
「国会は緊急事態宣言を発令しました。異常存在への対応として、全国に自衛隊を……」
だが、その声は爆発音にかき消された。佐藤がラジオを叩き、呟いた。
「無駄だ。あいつに勝てるわけねぇよ。俺の部隊は全滅したんだ」
美咲が冷静に言った。
「でも、生き残ってる私たちがいる。諦めるのは早いわ」
由美子が涙ぐみながら呟いた。
「でも……何でこんなことに……」
数馬は鉄パイプを握り、口を開いた。
「俺も分かんねぇ。でも、あいつを見てて思ったんだ。あの女、ただ殺してるだけじゃねぇ。何か目的があるみたいだ」
佐藤が目を細めた。
「目的?どういう意味だ?」
「分かんねぇよ。でも、無差別に殺してるように見えて、なんか……決まった動きがある気がする。政治家とか、特定の奴を狙ってるのかも」
美咲が頷いた。
「確かに、避難所でも妙だったわ。逃げる金持ちや議員を執拗に追ってたみたい」
拓也が苛立ちをぶつけた。
「目的があろうが何だろうが、関係ねぇだろ!俺たちまで殺されちまうんだぞ!」
数馬は拓也を見据え、言った。
「だから戦うしかねぇだろ。逃げてても追いつかれるだけだ」
「何!?お前、あいつにやられてただろ!勝てねぇよ!」
「勝てねぇかもしれない。でも、俺はもう逃げるだけじゃ嫌だ。家族がどこにいるか分かんねぇのに、このままじゃ……」
数馬の声が震え、皆が黙り込んだ。
その時、ラジオから新たな声が流れた。
「速報です!異常存在が国会方面へ移動中と確認されました!」
佐藤が顔を上げ、呟いた。
「国会か……確かに政治家を狙ってるなら、そこがターゲットだな」
美咲が提案した。
「私たちで何かできないかしら。彼女の動きを観察して、弱点を探すとか」
由美子が震えながら言った。
「でも……怖いよ……」
数馬が立ち上がり、皆を見回した。
「怖くてもやるしかねぇ。俺はあいつを止めたい。誰か一緒に来てくれるか?」
佐藤が頷いた。
「俺は行く。あいつに部隊をやられた借りがある」
美咲も立ち上がった。
「私も行くわ。医者として、生き残る手伝いがしたい」
由美子が躊躇いながらも言った。
「私も……家族に会いたいから……」
拓也がため息をつき、笑った。
「仕方ねぇな。お前がそこまで言うなら、付き合うよ」
彩花が涙を拭い、頷いた。
「私も……数馬君と一緒なら……」
数馬は鉄パイプを握り直し、決意を込めて言った。
「よし、じゃあ俺たちがあいつを追う。目的が分かれば、止められるかもしれない」
外で爆発音が響き、皆が顔を上げた。少女がまた動き出したのだ。数馬は仲間たちを見回し、言った。
「準備しろ。生き残るために戦うぞ」
全員が頷き、コンビニを出た。闇の中、数馬たちの小さな抵抗が始まった。