第6話:最初の犠牲者たち
数馬英人は公民館の瓦礫の中から這い出し、拓也と彩花を支えながら裏路地へと逃げ込んだ。背後では崩れ落ちる建物の音が響き、「トゥインクル♪ トゥインクル♪」というあの不気味な声が遠ざかっていく。夜が迫り、街は炎と煙に包まれていた。
「おい、数馬……もうダメだろ……どこ行ってもあいつが来る……」
拓也が息を切らしながら呟く。彩花は涙を流し、膝を抱えて座り込んでいた。数馬は拳を握り、瓦礫に目をやった。
「まだだ。死ぬわけにはいかねぇ」
「何!?どうすんだよ!自衛隊もダメだったんだぞ!」
拓也の叫びに、数馬は答えられなかった。ただ、胸の中で何か熱いものが湧き上がっていた。あの少女をこのまま野放しにはできない。だが、どうすればいいのか分からない。
路地裏で一息ついた時、遠くで足音が聞こえた。数馬たちが身を隠すと、二人組の男が近づいてきた。一人は野球バット、もう一人は鉄パイプを持っている。
「おい、誰かいるぞ!」
男の一人が数馬たちを見つけ、近づいてきた。拓也が立ち上がり、警戒しながら応じた。
「何だよ、お前ら!?」
「落ち着けよ。俺たちも逃げてきただけだ。あの化け物からな」
バットを持った男が言う。鉄パイプの男が続けた。
「見たぜ、あの傘女。公民館ぶっ壊してた。警察も自衛隊も全滅だ」
数馬が立ち上がり、尋ねた。
「お前ら、どこ行くつもりだ?」
「分かんねぇよ。ただ、あいつが来ない場所まで逃げるしかねぇだろ」
男たちの言葉に、数馬は一瞬考え込んだ。逃げるだけじゃダメだ。だが、他に何ができる?
その時、路地の奥からあの声が響いた。「トゥインクル♪ トゥインクル♪」。数馬たちが振り返ると、黒いゴスロリ風の少女が姿を現した。血と埃で汚れたドレスが夜の闇に溶け込み、傘を手に無表情で近づいてくる。
「くそっ、またかよ!」
拓也が叫び、彩花が悲鳴を上げた。バットの男が前に出て、叫んだ。
「お前ら、逃げろ!俺らが足止めする!」
「何!?無理だろ!」
数馬が制止するが、男たちは聞かなかった。バットの男が少女に突進し、鉄パイプの男が後ろから援護するように構えた。
「お前、何だ!何がしたいんだよ!」
バットの男が叫びながら振り下ろすが、少女は傘を広げて盾にし、バットを弾いた。「トゥインクル♪ トゥインクル♪」と呪文を唱え、傘が男の胸に触れた。男の身体が膨張し、次の瞬間、破裂した。血飛沫が飛び散り、数馬たちは目を背けた。
鉄パイプの男が怯みながらも叫んだ。
「くそっ、やるしかねぇ!」
彼が鉄パイプを振り上げるが、少女は無感情に傘を突き出した。「トゥインクル♪ トゥインクル♪」。男の身体が膨張し、爆発した。血と肉が路地を染め、数馬は歯を食いしばった。
「何!?何だよこれ……無駄じゃねぇか……」
拓也が呻く。彩花は泣き崩れていた。
少女が数馬たちに視線を向けた。彼女の瞳が一瞬揺れた気がしたが、すぐに傘を構えた。「トゥインクル♪ トゥインクル♪」。数馬は咄嗟に叫んだ。
「待て!俺たちに何の用だ!?」
だが、少女は答えず、傘を振り下ろした。数馬は拓也と彩花を突き飛ばし、自分も横に転がった。傘が地面に触れ、爆発が起きた。衝撃で三人は吹き飛ばされ、路地の壁に叩きつけられた。
「数馬!」
拓也が叫び、彩花が這って近づいてくる。数馬は立ち上がり、少女を見据えた。
「くそっ……逃げるだけじゃダメだ。戦わねぇと……」
「お前、何!?どうやってだよ!」
拓也が叫ぶが、数馬は瓦礫の中から鉄パイプを拾い上げた。
「分かんねぇ。でも、このままじゃ終わるだけだ」
少女が再び傘を構えた。「トゥインクル♪ トゥインクル♪」。数馬は鉄パイプを手に突進した。だが、彼女が傘を盾に広げ、数馬の攻撃を弾いた。次の瞬間、傘が数馬の肩に触れた。
「数馬!」
拓也の叫びが響く中、数馬の身体が膨張し始めた。だが、彩花が咄嗟に数馬を突き飛ばし、爆発は空振りになった。地面が吹き飛び、数馬は瓦礫に倒れ込んだ。
少女が一瞬立ち止まり、数馬を見下ろした。彼女の瞳に何か感情が宿った気がしたが、すぐに背を向け、路地の奥へと去っていった。
「数馬!大丈夫か!?」
拓也が駆け寄り、数馬を支えた。彩花も涙を流しながら近づく。数馬は肩を押さえ、呻いた。
「生きてる……けど、ダメだ。あいつに勝てねぇ……」
「何!?何で戦おうとしたんだよ!」
「分かんねぇ。でも、逃げるだけじゃ……家族も、みんなも……」
数馬の言葉が途切れ、涙がこぼれた。拓也が拳を握り、彩花が嗚咽を漏らす。
「もういい。逃げよう、数馬。生きてりゃ何とかなるだろ」
拓也の声に、数馬は小さく頷いた。三人は立ち上がり、少女の去った方向とは逆に歩き出した。だが、数馬の胸には決意が芽生えていた。いつか、あいつを止めなきゃいけない。