魔法少女デッドオアアライブ 第3話『街への拡散』

第3話:街への拡散

数馬英人は息を切らしながら裏庭のフェンスを越えた先の路地を走っていた。拓也が前を走り、彩花が数馬の腕にしがみついて必死に足を動かしている。背後では、校舎の崩れる音が遠く響き、時折「トゥインクル♪ トゥインクル♪」というあの不気味な声が風に混じって聞こえてきた。

「おい、数馬!どこ行くんだよ!?」

拓也が振り返りながら叫ぶ。数馬は息を整えつつ答えた。

「分かんねぇよ!とりあえず学校から離れよう!」

彩花が震える声で呟いた。

「警察……警察が来るよね?助けてくれるよね?」

「サイレン聞こえたろ?来るさ。でも、あいつに勝てるか分かんねぇ……」

数馬の言葉に、彩花の顔がさらに青ざめた。

路地を抜けると、そこは住宅街の入り口だった。普段なら子供の笑い声や犬の吠え声が聞こえる静かな通りが、今は異様な空気に包まれていた。遠くで煙が上がり、車のクラクションが鳴り響く。数馬たちは立ち止まり、互いに顔を見合わせた。

「何だよ、これ……」

拓也が呟く。その視線の先で、黒いゴスロリ風の少女が再び姿を現した。彼女は一本の傘を手に持ち、ゆっくりと歩いてくる。黒いドレスの裾が地面を擦り、白い肌が夕陽に映えて不気味に輝いていた。

「トゥインクル♪ トゥインクル♪」

少女が傘を軽く振り上げると、近くに停まっていた車が膨張し始めた。金属が軋む音が響き、次の瞬間、車が爆発した。炎と破片が飛び散り、数馬たちは咄嗟に身を伏せた。

「くそっ、またかよ!」

拓也が叫びながら立ち上がり、数馬と彩花を引っ張って走り出した。三人は住宅街の奥へと逃げ込んだが、背後では爆発音が連続して響き、少女が追ってくる気配がした。

角を曲がった先で、数馬たちは一人の男とぶつかった。スーツを着た中年男性で、手にはスーツケースを持っている。男は慌てた様子で叫んだ。

「お前ら、何だこの騒ぎは!?あいつは何者だ!?」

「分かんねぇよ!学校で急に現れて、人を殺しまくってるんだ!」

拓也が返すと、男は目を丸くして呟いた。

「学校?じゃあ、あれがここまで来たのか……」

「何!?知ってるのかよ!?」

数馬が詰め寄ると、男は首を振った。

「いや、テレビで見ただけだ。ニュースで『異常事態』って言ってた。警察が動いてるらしいが……」

その言葉が終わる前に、再びあの声が聞こえた。

「トゥインクル♪ トゥインクル♪」

路地の入り口で、少女が傘を構えていた。男が悲鳴を上げて逃げようとした瞬間、傘の先が彼の背中に触れた。男の身体が膨張し、数馬たちの目の前で破裂した。血と肉が飛び散り、彩花が叫び声を上げて地面に崩れ落ちた。

「彩花!立て!」

数馬が彩花を無理やり立たせ、三人は再び走り出した。だが、住宅街はすでに混乱の渦に巻き込まれていた。住民たちが家から飛び出し、車で逃げようとする者、荷物を抱えて走る者で溢れている。遠くではパトカーのサイレンが近づき、拡声器で何か叫ぶ声が聞こえた。

「こっちだ!」

拓也が路地裏の細い道を指し、三人はそこへ飛び込んだ。だが、少女の足音は止まらない。彼女は傘を手に、まるで機械のように淡々と追ってくる。

路地を抜けた先は小さな公園だった。ブランコが寂しく揺れ、ベンチには誰もいない。数馬たちは息を切らして立ち止まり、背後を確認した。少女はまだ見えなかったが、遠くで爆発音が響き、煙が上がっている。

「何だよ……街まで来てるのかよ……」

拓也が膝に手をついて呟く。彩花は涙を流しながら震えていた。

「何で……何でこんなことに……」

数馬は答えられなかった。ただ、頭の中であの少女の姿が繰り返し浮かんでいた。黒いドレス、傘、無感情な瞳。あれは人間じゃない。何か別のものだ。

その時、公園の入り口に影が現れた。少女だった。彼女は傘を手にゆっくりと近づいてくる。数馬たちは後ずさりしたが、背後はフェンスに阻まれていた。逃げ場がない。

「トゥインクル♪ トゥインクル♪」

少女が傘を掲げた瞬間、数馬は咄嗟に叫んだ。

「待て!何だよ、お前!何がしたいんだ!?」

一瞬、少女の動きが止まった。彼女の瞳が数馬を見据え、初めて感情のようなものが揺れた気がした。だが、それはすぐに消え、再び傘が振り上げられた。

「トゥインクル♪ トゥインクル♪」

公園の地面が膨張し、爆発した。数馬たちは衝撃で吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。視界が揺れ、耳鳴りが響く。

「数馬!」

拓也の叫び声が遠く聞こえた。数馬が顔を上げると、少女が傘を手にこちらを見下ろしていた。だが、その背後でパトカーの赤い光が近づいてくるのが見えた。警察だ。

少女は一瞬だけ振り返り、傘を広げて盾のように構えた。そして、数馬たちに背を向けて歩き出した。彼女の黒いドレスが夕陽に映え、遠ざかっていく。

「助かった……のか?」

拓也が呟く。だが、数馬には確信があった。あれは終わりじゃない。ただの猶予だ。

「行こう。まだ終わってねぇよ」

数馬は立ち上がり、拓也と彩花を連れて公園を後にした。背後で、少女の足音が再び聞こえ始めた。