ジグザグの鍵…第4話

「ジグザグの鍵」 第4話

佐藤健太の体はもはや人間の形を留めていなかった。

右腕、左太もも、腹、胸――切り裂かれた傷口から血が流れ、コンクリートの床は赤黒い血の海だ。

ナイフを握る手は血と汗で滑り、震えが止まらない。

胸から引き抜いた鍵は血まみれの鉄で、鉄の扉の鍵穴に合わずダミーだった。

「またダミー!? ふざけんな!ちくしょぉぉぉぉ…」

健太は鍵を投げつけ、床に額を打ちつけ、鼻水と涙で顔をぐしゃぐしゃにして泣き喚いた。

「助けて! お願い、助けて!もう嫌だ!」

情けない声が部屋に響くが、テレビ画面では視聴者数が25万を超え、コメント欄は狂乱の坩堝だ。

「殺人野郎が喚くな!」

「首やれ!」

「血見せろ!」

――群衆の罵声が心を粉々に砕く。

「く、くそ野郎どもが!」

ジグザグの白塗りの顔が画面に現れる。

赤い唇が歪み、黒いアイラインの目は冷たく底知れぬ。

「最後の鍵だ、健太。首にある。本物かもしれない。急げ。世界が見ている。」

その声は脳を焼き、健太は床を這いながら嗚咽した。

「もう無理だ! 死にたくねえ! 誰か!助けてくれ!」

視聴者のコメントは冷酷だ。

「おいおい命乞いだよ!情けねぇ!」

「殺人犯は死ね!」

「もっと喚け!」

――まるで彼の命を玩具にする獣の叫びのようだ。

画面が切り替わり、あの夜の映像が流れる。

健太がスマホで撮影した女の姿。

彼女は床に倒れ、顔は殴られて肉が裂け、目が腫れて血が滲む。

「やめて! お願い!」

彼女の叫びが響くが、健太は笑いながら彼女の喉にナイフを突き立てる。

血が噴き、彼女が血泡を吐きながら痙攣する姿を、健太は執拗に撮影した。

彼女の目が絶望で光を失う。

「お前が撮った彼女の最期だ。お前の性癖を満たすために犠牲になった哀れな命だ。」

ジグザグの声がさらに重ねる。

「その痛みを、己自身の体で味わえ。」

健太は泣き叫び、ナイフを首に当てた。

「嫌だ! 助けて! お願いします!」

「お前はそうやって命乞いをする女を嘲笑い喉にナイフを突き立てた。どうだ?今の気持ちは?早くしないと出血多量で死ぬぞ。」

「ひ…ぐ…」

鼻水が床に滴り、震える手で刃を押し込む。

「あぁぁぁぁぁ!!」

皮膚が裂け、血が噴き出す。

喉の筋肉が引きちぎれ、気管が震える。

激痛に体が痙攣し、血泡が口から溢れ、床に嘔吐した。

「げふぁっ!痛え! やめてくれ!」

叫びながら、指を傷口に突っ込む。

血管をかき分け、動脈に絡まる硬い金属に触れた。

鍵だ。

「うぐ…あぁ…」

引き抜くたびに血が噴水のように溢れ、健太は絶叫しながら倒れた。

血まみれの鍵は肉片にまみれ、ギザギザの歯が光る。

「これが本物…やっと出れる…!」と叫び、這って扉へ。

「ここから出たら…俺を…こんな目に合わせた奴ら全員ぶっ殺す…はは…ざまぁねぇぜ…!」

鍵を鍵穴に差し、震える手で回す。

だが、カチリとも動かない。

「な…!?ぜ、全部ダミー!? ふふ、ふ、ふざけるなァ!!」

健太は鍵を投げ、床に崩れて泣き喚いた。

「うわぁぁぁ!お願いだ! もうやめて! 死にたくねえ!」

ジグザグの声が響く。

「鍵は必要なかった、健太。」

突然、健太の目が扉の取っ手に留まる。

ドアノブの形だが、軽い。

試しに上に持ち上げると、ガチリと音を立て、扉がスライドして開いた。

鍵など不要だったのだ。

取っ手は改造され、ドアノブを装っていただけ。

「何……開くのか!?」

だが、喜びは一瞬。血を失いすぎ、立つこともできない。無情にも切り裂いた傷から血が止めどなく流れ出てくる。

ジグザグの声が響く。

「気づいたか? 全てダミーだ。なぜこんなことをしたと思う?」

画面に女の顔がアップで映る。彼女の目……ジグザグと同じ冷たい目が健太を貫く。

「お前を極限まで追い込み、自らを切り裂かせた。密室なら殺人だが、扉が開くなら自殺だ。世界はお前が自分で命を絶ったと思うだろう。彼女と同じ痛みを思い知らせることが目的だった。お前の罪はお前の命をかけても償うことはできない。」

健太の意識が薄れる。

「お前は……彼女……?」

血泡に言葉が消える。

ジグザグの笑い声。

「私の名はジグザグ。お前の地獄だ。」

部屋の明かりが消え、闇が飲み込む。

視聴者数は50万、コメントは「自殺キター!」「最高のショー!」「次は誰?」と狂乱する。健太の体は冷たいコンクリートに沈み、動かなくなった。