「ジグザグの鍵」 第3話
佐藤健太の体は血と肉の残骸だった。
右腕、左太ももは切り裂かれ、腹からは血が流れ出し、コンクリートの床は赤黒い沼と化していた。
ナイフを握る手は血と汗でべとつき、震えが止まらない。これまで引き抜いた鍵は、血まみれのギザギザの鉄で、鉄の扉の鍵穴に合わずダミーだった。
「またダミーかよ! ふざけんな!チクショー!!」
健太は床に鍵を叩きつけ、鼻水と涙で顔をぐしゃぐしゃにして泣き喚いた。
「助けて! お願い、助けてください!こんな酷い事を誰か止めてくれ!!」
情けない声が部屋に響くが、テレビ画面では視聴者数が10万を超え、コメント欄は狂気の嵐だ。
「泣くな、クズ!」
「腹やれ!」
「内臓見せろ!」
――群衆の罵声が心を抉る。
ジグザグの白塗りの顔が画面に現れる。
赤い唇が歪み、黒いアイラインの目は冷たく底知れぬ。
「腹だ、健太。鍵はそこに眠っている。急げ。世界が見ている。早くしないと出血多量で死ぬぞ。」
その声は脳を刺し、健太は床を這いながら嗚咽した。
「もう無理だ! 死にたくねえ! 誰か助けて!お願いします!」
顔をクシャクシャにして懇願する。だが、視聴者のコメントは冷酷だ。
「喚くな!」
「腹裂け!」
「もっと血だせ!このケダモノが!」
――まるで彼の恐怖を貪る獣の咆哮。
画面が切り替わり、あの夜の映像が流れる。
健太がスマホで撮影した女の姿。
彼女は床に倒れ、顔は殴られて紫に腫れ、唇が裂けて血が滴る。
「やめて! お願い!」
彼女の叫びが響くが、健太は笑いながら彼女の腹をナイフで切り裂く。
腸がこぼれ、彼女が血を吐きながら痙攣する姿を、健太は執拗にズームで撮影した。
彼女の目が絶望で曇り、命が消える。
「お前が撮った彼女の苦しみだ。彼女は命を懇願した。だがお前はそんな彼女を見て嘲笑い撮影し続けた。」
ジグザグの声が重ねる。
「その痛みを、今味わうがいい。」
健太は泣き叫び、ナイフを腹に当てた。
「嫌だ! 助けて! お願いします!死にたくない!」
情けなく喚き、鼻水が床に滴る。
視聴者のコメントが加速する。
「腹抉れ!」
「内臓出せ!」
「もっと泣け!」
――健太は震える手で刃を押し込んだ。
「ぐぬぅぅぅぅぅッッッ…!!」
皮膚が裂け、血が噴き出す。腸がこぼれそうになり、ぬるりとした感触に吐き気が襲う。
激痛に体が痙攣し、床に倒れて嘔吐した。
「おげぇぇぇっ!痛えっ! やめてくれ!もう…嫌だっ!」
叫びながら、指を傷口に突っ込む。
「あ…ぐっ…!」
柔らかく熱い臓器をかき分け、指先に硬い金属に触れた。
鍵だ。
腸に絡まり、引き抜くたびに肉が裂ける。
血が噴き、健太は絶叫しながら鍵を引き抜いた。
血まみれの鍵を握り、這って扉にたどり着く。
「これが本物か!?」と叫び、震える手でようやく鍵を鍵穴に差し込む。だが、カチリとも動かない。
「ま…た…ダミーッッッ!? くそくらえ!なんだよぉぉぉぉ!!」
健太は鍵を投げ、床に額を打ちつけて泣き喚いた。
「お願いだ! もうやめて!こんな酷いショーを見せてなんになるんだ!?」
ジグザグの声が響く。
「次は胸だ。心臓の近くに鍵がある。探せ。まだチャンスはあるぞ。」
画面にX線映像が映り、胸に鍵の影が蠢く。
健太はナイフを胸に当て、震える。
「助けて……誰か……!」
命乞いは虚しく、視聴者数は15万に達し、コメントは「心臓抉れ!」「もっと喚け!」「死ね!ゴミクズ!」と狂乱する。
刃を押し込むと、肋骨に当たる感触が伝わる。
血が噴き、骨が軋む。
「ああああっ…!!」
激痛に視界が白く飛び、健太は床を転げ回って絶叫した。指で傷口を探り、肋骨に絡まる鍵を引き抜く。
血と肉片にまみれた鍵を握り、這って扉へ。
「これが本物か!?」鍵穴に差し込むが、またダミー。絶望に健太は床に崩れ、鼻水と血で顔を濡らした。
「もう嫌だ! 死にたくねえ!」