ごつ盛りとビールはごちそうだった日常。
世界は名も知らない多くの人たちの仕事で回っている。
そりゃ、世界を騒がせている某独裁者もいればネットだけで有名な人もいる。
誰もが知るアーティストもいるし、プロ野球選手だっている。
でも世界はそういう大きな人たちではなく小さな人たちの仕事で回っているのだ。
私もまた小さな人たちの一人だ。
その日は雨だった。
もう冬の足音が聞こえてくる。
暑い暑いと喚いていた夏は遠い過去のようだ。
部屋の室温がマイナス5度になり、あまりの寒さに体を震わせ、生まれたての子鹿のようになりながら着替えを済ませる。
そしていつものように渋滞路を車で走らせ職場に向かう。
何十年も変わらない生活だ。
賃金も変わらない。
運悪く就職氷河期世代に生まれてしまったものだから運がなかったといえばそれまでだ。
だがこの世界は気に入っている。
クソッタレでろくでもない世界だが、とりあえず少しだけのお金があれば、それなりにおいしいものを食べることができて贅沢もできる。
ささやかなものだが、それを糧に仕事に打ち込むことができるのだ。
悪天候が重なり、雨に打たれ、暴風に枯れ髪を乱し、とめどなく流れ落ちてくる鼻水を舐めながら労働を終える帰路につく。
背中を丸め、特に思い出す必要もない一日で振り返ることなく、ただ疲労感にため息を吐いて眼鏡を曇らせた。
家に到着すると猫が甘えてくる。
少なくともこのろくでもない世界で私のことを慕ってくれるのはこの猫だけだ。
コロコロと喉を鳴らし足にまとわりついてくるが、餌を与えてしまえばもう他人のように素っ気なく自分のお気に入りの場所へと去っていく。
そして私も食事の時間。
帰る途中で立ち寄ったドラッグストアで買ったカップ焼きそば『ごつ盛り』と『金麦ラガー』をテーブルに置く。
お湯が沸くまでの間は少しの余暇が生まれる。
刻みゆく時計の秒針を眺め、その音だけを聴いていた。
やかんから湯気が立ち上ると蓋を開け、麺を持ち上げキャベツを下に潜り込ませた。
そしてお湯を注ぎ再び蓋をする。
3分間…ただ立ち尽くしその時を待つ。
その僅かな時間の隙間に少し考え事をする。
どうってことはない。
今日という日が終わっただけだ。
恋い焦がれたあの人はきっと誰かと幸せに暮らしているさと諦めてきた人生をふと思った。
3分間が経ち、湯切り口をピリピリと開け、昨日の使った食器が浸かったままの洗面器へとお湯を捨てる。
湯気で眼鏡が曇る。
雫がタツタツと滴る程度になったら激しく容器を振り、一応蓋を4本指を使った
『スーパーデコピン』
で、蓋の裏に付いたキャベツを落とす。
完全に湯を切り、蓋を全て剥がす。
添付されているソースを入れて箸でまんべんなくかき混ぜるのだ。
香ばしいソースの香りが鼻の中へ広がっていく。
そしてマヨネーズの袋を小さく切ると『マヨビーム』で綺麗に仕上げる。
くたびれたソファーに腰掛けてグラスにビールを注ぐとごきげんな夕食の完成だ。
キンキンに冷えているビールを一気に喉に流し込む。
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くぅ〜〜〜〜〜〜ッッッ!!
効くぜぇぇぇぇ!!
これぞ庶民の暮らしよ。
ごつ盛りをかき込む。
ただうまい。
ひたすらうまい!
この油っこくてチープな味わいこそがごつ盛りらしさと言える。
あっという間に口の中が焼きそばの味になるので金麦ラガーを流し込む。
強い苦味が特徴的で発泡酒ながらビール同様のコクを味わえる。
焼きそばを食い
ビールで流す。
焼きそば
ビール
焼きそば
その繰り返しだ。
カップの隅に溜まったソースをまみれのキャベツをつまみ、完食!!
大きくため息を吐くとすぐに横になり天井を眺めた。
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明日も頑張ろう…。
満腹感から心地よい微睡みの中へ落ちていったのだった。