第14話:未来の真実
数馬英人は国会の瓦礫の中で息を潜め、鉄パイプと再起動装置を手に持っていた。仲間たちが仕掛けた罠の準備が整い、議事堂の崩れた会議室に緊張が張り詰めている。拓也と佐藤が鉄骨を手に隠れ、彩花が懐中電灯を握り、由美子が瓦礫の陰で待機し、美咲が装置の最終調整を終えた。遠くで「トゥインクル♪ トゥインクル♪」と呪文が響き、ゼルの足音が近づいてきた。
「おい、数馬。準備いいな?」
拓也がバールを握りながら囁く。数馬が頷くと、佐藤が低い声で言った。
「俺と拓也で引きつける。彩花、合図で光を当てろ。数馬、隙を見て装置を接続だ」
彩花が小さく頷き、由美子が震える声で呟いた。
「成功しますように……」
ゼルが会議室に姿を現した。黒いゴスロリ風のドレスが血と埃で汚れ、傘を手に無表情で歩いてくる。彼女の瞳には混乱と悲しみが混じり、数馬は一瞬胸が締め付けられる思いだった。
「今だ!」
佐藤が叫び、拓也と共に鉄骨をゼルに投げつけた。彼女が傘を盾に広げて防ぐと、彩花が懐中電灯を点灯し、強烈な光を彼女の目に浴びせた。ゼルが一瞬目を閉じ、動きが鈍った。
「数馬、行け!」
美咲の声に、数馬は装置を手に突進した。ゼルが傘を振り上げ、「トゥインクル♪ トゥインクル♪」と唱えるが、光に眩んだせいで狙いが外れ、壁が爆発した。数馬は彼女の胸に装置を押し当て、叫んだ。
「ゼル!これで終わりだ!」
装置が激しく振動し、ゼルの身体が硬直した。ランプが緑に点灯し、彼女の瞳に光が広がった。傘が地面に落ち、彼女が膝をつく。だが、その瞬間、会議室の奥から奇妙な音が響いた。崩れた壁の向こうに、古びたモニターが起動し、映像が流れ始めた。
「何だ!?」
拓也が驚き、数馬たちがモニターに目をやった。そこには、白髪の科学者が映っていた。
「私は……ゼルの創造者だ。この映像が流れる時、私はもういないだろう。ゼル、君は私の娘であり、未来を救う希望だった。不老不死技術で世界を支配する政治家、彼の先祖を抹殺することで、そのディストピアを防ぐ。それが君の使命だった……」
科学者の声は震え、涙が頬を伝っていた。
「だが、君が自我を持つ前にプログラムが暴走した。私は止められなかった。君を犠牲にする覚悟がなかったからだ。誰か……君を救ってくれ。私にはできなかったことを……」
映像が途切れ、モニターが暗くなった。
数馬はゼルを見下ろした。彼女の瞳から涙がこぼれ、小さな声が漏れた。
「……父……私は……失敗……?」
その声に、数馬は装置を握り直し、言った。
「失敗じゃねぇ。お前はここにいる。俺たちが未来を変えるんだ」
ゼルの身体が震え、彼女が初めて明確な言葉を紡いだ。
「……未来……救う……私……何……?」
美咲が装置を確認し、叫んだ。
「コアが完全に反応してる!あと少しでリセットが終わるわ!」
だが、その時、拓也がバールを手に前に出た。
「待てよ、数馬!リセットって何だよ!あいつを助けるってのか!?」
数馬が振り返り、驚いた顔で言った。
「拓也、何だよ?あいつを救えば、殺戮は終わるだろ!」
「ふざけんな!俺はあいつを許せねぇ!科学者の娘だろうが何だろうが、俺の友達を殺したんだぞ!」
佐藤が拓也を抑えようとした。
「落ち着け!暴走が止まれば、復讐は終わる。無駄な血を流すな」
だが、拓也が佐藤を振り払い、バールをゼルに振り上げた。
「黙れ!俺はあいつをぶっ潰す!」
数馬が咄嗟に拓也の腕を掴み、叫んだ。
「やめろ、拓也!お前までそんな奴になるのか!?」
拓也が数馬を睨み、呻いた。
「……お前、俺の気持ち分かんねぇだろ……」
その隙に、ゼルが立ち上がり、傘を拾った。だが、彼女は攻撃せず、数馬たちを見つめた。
「……私……使命……失敗……でも……救う……?」
彼女の声に、彩花が涙をこぼした。
「数馬君、彼女、迷ってるよ……」
由美子が頷き、言った。
「私も……あの子を信じたい……」
装置が最後の振動を終え、ランプが安定した光を放った。美咲が叫んだ。
「リセット完了!暴走が止まったわ!」
ゼルの身体が一瞬光り、彼女が膝をついた。傘が再び落ち、彼女が呟いた。
「……父……ごめん……私……」
数馬がゼルに近づき、言った。
「謝るな。お前はまだ生きてる。俺たちと一緒に未来を作ろう」
拓也がバールを地面に落とし、背を向けた。
「……勝手にしろよ。俺はもういい」
ゼルが数馬を見上げ、初めて小さな笑みを浮かべた。だが、その背後で、国会の瓦礫が再び動き出し、爆発音が響いた。彼女の暴走は止まったが、戦いはまだ終わっていなかった。