第15話:再びの敗北
数馬英人は国会の会議室で膝をつくゼルを見下ろし、再起動装置を手に持っていた。彼女の瞳には涙が浮かび、初めての笑みが小さく揺れている。黒いゴスロリ風のドレスが血と埃にまみれ、傘が地面に落ちたまま動かない。装置のランプが安定した光を放ち、美咲が息を吐いて言った。
「リセット完了よ。暴走は止まった。これで終わりね」
彩花が涙を拭い、由美子が安堵の笑みを浮かべた。佐藤がナイフを収め、頷いた。
「よくやった、数馬。あいつの自我が戻ったんだ」
だが、拓也はバールを地面に置き、背を向けたまま呟いた。
「終わり?ふざけんなよ。俺には何も終わってねぇ」
数馬が拓也に近づき、肩を叩こうとした。
「拓也、聞いてくれ。あいつを救えば――」
「黙れ!」
拓也が振り向き、数馬を突き飛ばした。
「お前、あいつの笑顔見て喜んでんのか?俺の友達が死んだのは誰のせいだと思ってんだ!」
その瞬間、ゼルの身体が震えた。彼女が立ち上がり、瞳から光が消えた。装置のランプが赤く点滅し、美咲が叫んだ。
「何!?コアが不安定になってる!リセットが崩れたわ!」
ゼルが傘を拾い上げ、機械的な声で呟いた。
「……使命……再起動……抹殺……」
数馬が目を丸くし、叫んだ。
「ゼル!待て!お前、戻ったんじゃなかったのか!?」
「トゥインクル♪ トゥインクル♪」
ゼルが傘を振り上げ、数馬たちに向かって突き出した。佐藤が咄嗟に数馬を突き飛ばし、地面が膨張し、爆発した。衝撃で一行は吹き飛ばされ、瓦礫に倒れ込んだ。
「くそっ、またかよ!」
拓也が這い上がり、バールを握った。彩花と由美子が悲鳴を上げ、美咲が装置を拾って確認した。
「エネルギーが逆流したのよ!プログラムが再暴走してる!」
ゼルが無表情で歩き出し、傘を手に次々と瓦礫を破壊していった。彼女の瞳には自我の光が消え、再び機械的な冷たさが宿っていた。数馬は這い上がり、叫んだ。
「ゼル!聞こえてるなら答えろ!お前は科学者の娘だろ!俺たちと一緒にいただろ!」
だが、彼女は反応せず、「トゥインクル♪ トゥインクル♪」と呪文を唱えた。会議室の柱が膨張し、爆発した。数馬たちは瓦礫の陰に隠れ、佐藤が呻いた。
「くそっ、やっと希望が見えたと思ったのに……」
美咲が装置を手に震える声で言った。
「私のミスよ。エネルギー調整が甘かった。完全リセットにはもっと時間が必要だったみたい……」
数馬が鉄パイプを握り直し、言った。
「責めんな、美咲。お前のおかげであいつに届いたんだ。もう一度やれば――」
拓也が割り込んで叫んだ。
「もう一度!?ふざけんな、数馬!あいつは化け物だ!救うなんて無理なんだよ!」
数馬が拓也を睨み、反論した。
「無理じゃねぇ!さっき笑ってたろ!あいつは俺たちを――」
「笑ってたから何だよ!俺たちの死体見て笑ってたのかもしれねぇだろ!」
その時、ゼルが一行に近づき、傘を掲げた。「トゥインクル♪ トゥインクル♪」。由美子が咄嗟に彩花を突き飛ばし、自分が衝撃を受けた。彼女の身体が膨張し、次の瞬間、破裂した。血と肉が飛び散り、数馬たちは呆然と立ち尽くした。
「由美子さん!」
彩花が泣き叫び、佐藤が歯を食いしばった。
「くそっ、また仲間が……!」
拓也がバールを手に突進し、叫んだ。
「てめぇ!もう許さねぇ!」
だが、ゼルが傘を盾に広げ、拓也の攻撃を弾いた。「トゥインクル♪ トゥインクル♪」。拓也が吹き飛ばされ、数馬が彼を支えた。
「拓也!無茶すんな!」
ゼルが再び歩き出し、国会の奥へと進んだ。彼女の背後に、崩れた議事堂の残骸が燃えている。美咲が装置を手に呟いた。
「エネルギーが枯渇したわ。もう一度起動するには、新しいバッテリーが必要……」
佐藤が肩を押さえ、言った。
「撤退だ。ここじゃ勝てねぇ。由美子の死を無駄にするな」
数馬が拳を握り、叫んだ。
「撤退!?まだだ!あいつを――」
拓也が立ち上がり、数馬を睨んだ。
「お前、まだ言うのかよ!由美子が死んだんだぞ!お前のせいで!」
その言葉に、数馬は言葉を失った。彩花が泣きながら呟いた。
「数馬君……もういいよ……逃げよう……」
ゼルの足音が遠ざかり、数馬は膝をついた。鉄パイプが地面に落ち、装置が彼の手から滑り落ちた。
「くそっ……俺のせいか……?」
佐藤が数馬の肩を掴み、言った。
「違う。お前が希望を見せたから、ここまで来れた。だが、今は退くんだ」
拓也が背を向け、呟いた。
「俺はもうお前とやらねぇ。勝手にしろ」
一行は由美子の遺体を背に、国会を後にした。希望が打ち砕かれ、再びの敗北が彼らを襲っていた。