第13話:裏切りの芽
数馬英人は国会の瓦礫の中で一息つき、仲間たちと共に再起動装置を手に持っていた。ゼルの暴走を一時的に抑えた喜びがまだ胸に残っているが、彼女が去った方向から漂う煙と爆発音が、新たな戦いの予感を告げていた。鉄パイプを握る彼の横で、拓也がバールを手に笑った。
「おい、数馬。やっと勝った感じだな。あいつ、ビビって逃げたんじゃねぇの?」
彩花が懐中電灯を握り、微笑んだ。
「数馬君、すごかったよ。あの子、ちょっと変わったよね」
だが、美咲が設計図を見ながら眉を寄せた。
「まだ完全じゃないわ。コアのリセットが中途半端で、暴走が再発する可能性がある」
佐藤が軍用ナイフを手に頷いた。
「次はもっと確実に仕掛ける必要があるな。あの隙を逃さねぇ」
由美子が震える声で呟いた。
「あの子、悲しそうだった……救えるなら、私も手伝いたい……」
数馬は装置を見つめ、決意を込めて言った。
「そうだ。あいつを殺すんじゃなくて、救うんだ。科学者の遺志を継ぐためにも」
だが、その言葉に、拓也が突然声を荒げた。
「おい、数馬!何!?救うって何だよ!あいつは化け物だぞ!何人殺したと思ってんだ!」
数馬が振り返り、驚いた顔で拓也を見た。
「拓也、何だよ?確かに殺してるけど、暴走してるだけだろ。自我が戻れば――」
「自我が戻ったって何だよ!俺たちの友達、家族、あいつにやられたんだぞ!そんな奴救うなんて頭おかしいだろ!」
拓也の怒鳴り声に、皆が凍りついた。彩花が小さく呟いた。
「拓也君……でも、数馬君の言う通りなら……」
「黙れよ、彩花!お前までそっち側か!?」
佐藤が冷静に割って入った。
「落ち着け、拓也。あいつの目的が政治家なら、俺たちまで狙う理由はねぇ。数馬の言う通り、暴走を止めるのが先だ」
だが、拓也がバールを地面に叩きつけ、叫んだ。
「政治家だろうが何だろうが関係ねぇ!俺はあいつが許せねぇんだよ!部隊が全滅したお前が何でそんな冷静でいられるんだ、佐藤!」
佐藤が目を細め、低い声で答えた。
「だからだ。あいつの暴走を止めて、部隊の仇を正しく討ちたい。無駄死にはもうゴメンだ」
美咲が設計図を手に仲裁に入った。
「みんな、聞いて。ゼルのプログラムがリセットできれば、殺戮は終わるわ。数馬君の言う『救う』は、結果的に私たちを守ることにもなる」
由美子が涙をこぼしながら言った。
「私も怖いよ。でも、あの子が暴走してるだけなら……家族に会えるかもしれないよね?」
拓也が苛立ったように髪をかきむしった。
「ふざけんなよ……お前ら全員おかしいよ。あんな化け物を救うなんて……」
数馬は鉄パイプを握り、拓也に近づいた。
「拓也、俺だって怖いよ。友達が死んだのも、家族がどこにいるか分かんねぇのも、全部悔しい。でも、あいつを殺すだけじゃ何も変わらねぇ。未来を変えるには、止めなきゃいけねぇんだ」
拓也が数馬を睨み、呟いた。
「未来?そんな綺麗事で俺の怒りが収まると思ってんのか?」
「収まらなくていい。でも、一緒に戦ってくれ。俺にはお前が必要だ」
拓也が一瞬黙り込み、バールを拾い上げた。
「……分かったよ。だが、俺はあいつを許さねぇからな。救うとか言っても、最後はぶっ潰す」
数馬が小さく笑い、頷いた。
「それでいい。お前は俺の相棒だろ」
その時、議事堂の奥から爆発音が響いた。ゼルが再び動き出したのだ。美咲が装置を手に言った。
「エネルギー出力が安定してきたわ。次で完全リセットできるかもしれない。でも、近づくのが……」
佐藤が提案した。
「罠を仕掛けるぞ。あいつの動きを封じて、数馬が装置を接続する。俺と拓也で囮になる」
彩花が懐中電灯を握り直し、言った。
「私も手伝うよ。光で目をくらませるから」
由美子が木の棒を手に頷いた。
「私も……何かできるなら……」
数馬は仲間たちを見回し、決意を込めて言った。
「よし、作戦だ。ゼルを罠に嵌めて、コアをリセットする。俺たちが未来を変えるんだ」
だが、拓也が背を向け、小さく呟いた。
「未来か……俺には関係ねぇよ。俺はただあいつを……」
その言葉は誰にも聞こえず、風に消えた。
一行は瓦礫の中を進み、罠の準備を始めた。佐藤と拓也が鉄骨を動かし、彩花と由美子が瓦礫を積み上げて隠れ場所を作った。美咲が装置を調整し、数馬に手渡した。
「これで最後よ。気をつけてね、数馬君」
数馬が頷き、鉄パイプと装置を手に持った。
「ああ、絶対に成功させる」
遠くでゼルの足音が近づいてきた。彼女の黒いドレスが闇に浮かび、数馬たちの戦いが新たな試練を迎えていた。拓也の瞳に宿る怒りと、数馬の決意が交錯する中、罠が静かに仕掛けられた。