魔法少女デッドオアアライブ 第12話『最初の勝利』

第12話:最初の勝利

数馬英人は会議室の瓦礫の中で這い上がり、再起動装置を握り直した。目の前では、黒いゴスロリ風の少女――ゼルが傘を手に立ち、こちらを見据えている。彼女の胸に触れた装置のランプが点滅し、一瞬だけ彼女の瞳に光が宿った。だが、暴走は止まらず、「トゥインクル♪ トゥインクル♪」と呪文が響く。数馬は咄嗟に跳び退き、地面の爆発を避けた。

「数馬!大丈夫か!?」

拓也がバールを手に駆け寄る。佐藤がナイフを構え、美咲が装置の状態を確認した。

「ランプが点いてる!コアに反応してるわ。でも、まだ完全じゃないみたい!」

彩花と由美子が瓦礫の陰から叫んだ。

「気をつけて!また来るよ!」

ゼルが傘を振り上げ、数馬たちに向かって歩いてきた。だが、その動きにわずかな躊躇が見えた。彼女の瞳が揺れ、小さな声が再び漏れる。

「……父……私は……何……?」

数馬は目を凝らし、叫んだ。

「ゼル!聞こえてるなら答えろ!お前は科学者の娘だろ!何でこんなことしてるんだ!?」

一瞬、彼女の動きが完全に止まった。傘を握る手が震え、黒いドレスの裾が風に揺れる。だが、次の瞬間、彼女が傘を盾に広げ、「トゥインクル♪ トゥインクル♪」と唱えた。会議室の柱が膨張し、爆発した。数馬たちは衝撃で吹き飛ばされ、瓦礫に倒れ込んだ。

「くそっ、まだ暴走してるのか!」

拓也が呻く。佐藤が立ち上がり、言った。

「だが、反応したぞ。自我が戻りかけてる。あと一押しだ!」

美咲が装置を手に調整を始め、叫んだ。

「エネルギー出力が足りないのよ!バッテリーをもう一つ繋げれば、完全起動できるかも!」

数馬が周囲を見回すと、会議室の隅に自衛隊の残骸が転がっていた。そこに予備バッテリーが見えた。

「拓也!佐藤!あれを取ってくれ!」

二人が頷き、瓦礫を越えてバッテリーに向かった。ゼルが再び傘を構え、「トゥインクル♪ トゥインクル♪」。拓也が跳び退き、佐藤がナイフを投げて彼女の注意を引いた。爆発が起きる中、二人はバッテリーを掴み、数馬に投げ渡した。

「受け取れ!」

数馬がバッテリーを手に装置に接続すると、ランプが強く点灯し、機械音が鳴り始めた。美咲が叫んだ。

「これでいける!数馬、近づいて!」

ゼルが数馬たちに視線を向け、傘を振り上げた。「トゥインクル♪ トゥインクル♪」。だが、数馬は装置を手に突進し、佐藤と拓也が両側から瓦礫を投げて彼女の動きを封じた。彩花と由美子が叫んだ。

「今だよ、数馬君!」

数馬はゼルの胸に装置を押し当て、叫んだ。

「ゼル!目を覚ませ!お前は殺すために生まれたんじゃないだろ!」

装置が激しく振動し、ゼルの身体が硬直した。彼女の瞳に光が広がり、傘が地面に落ちた。初めて、彼女の口から明確な言葉が紡がれた。

「……父……私は……使命……?」

その声は壊れた機械のようだったが、感情が込もっていた。数馬は息を呑み、言った。

「そうだ、お前は科学者の娘だ。未来を救うために生まれたんだろ?でも、この殺戮は違う!」

ゼルの瞳が揺れ、彼女が膝をついた。装置のランプが緑に変わり、美咲が叫んだ。

「コアが安定した!暴走が止まったみたい!」

だが、次の瞬間、ゼルの身体が再び動き出した。彼女が傘を拾い上げ、「トゥインクル♪ トゥインクル♪」と呟いた。数馬は咄嗟に装置を離し、後退した。地面が膨張するが、爆発は小さく、衝撃も弱かった。佐藤が目を細めた。

「威力落ちてるぞ!効いてるんだ!」

拓也が笑った。

「おい、初めて勝ったんじゃねぇか!?」

彩花と由美子が涙を流しながら抱き合った。

ゼルが立ち上がり、数馬を見据えた。彼女の瞳には混乱と悲しみが混じり、再び声が漏れた。

「……使命……父……私は……何……?」

数馬は鉄パイプを握り直し、言った。

「分かんねぇなら、一緒に探そうぜ。お前をこのままにはしねぇ」

ゼルが一瞬黙り込み、傘を手に持ったまま背を向けた。彼女は会議室の奥へ歩き出し、国会の闇に消えた。だが、その背中には殺意ではなく、迷いがあるように見えた。

数馬は装置を拾い、仲間たちを見回した。

「やったぞ。初めてあいつを止めた」

美咲が設計図を見ながら言った。

「でも、まだ完全じゃないわ。プログラムのリセットが中途半端みたい。もう一度近づく必要がある」

佐藤が頷いた。

「次はもっと準備が必要だな。だが、勝機が見えた」

拓也が肩を叩き、笑った。

「お前、すげぇよ、数馬。ほんとリーダーだな」

彩花と由美子も笑顔で頷いた。

数馬はゼルの去った方向を見つめた。彼女の自我が戻りつつあるなら、救えるかもしれない。科学者の遺志を継ぎ、未来を変えるために。

「休む暇はねぇ。あいつを追うぞ。次で決める」

仲間たちが頷き、一行は瓦礫の中を進み始めた。最初の勝利が、彼らに小さな希望を灯していた。