「唱えさせる暇を与えない…」
ロウファはますます攻撃のスピードを上げる。
「くっ…」
クリスは徐々にロウファの攻撃に押され後ろに下がり始めた。
ハンマーを弾いていた手から出血し始める。
「ちっ…そろそろ限界ですわね☆しつこいのは嫌われますわよ!!」
魔導書を持っていた手から光弾が放たれロウファの腹に命中すると一瞬小さくなる。すると激しく回転し始め光が凝縮され眩い光と共に爆発する。
「…っっ!?」
ロウファの小さい体は天井近くまで舞い上がり力なく床に落ちていった。
「ほほほ☆元々詠唱など必要ないのですわ☆あれは魔力を増幅させるためのもの…魔力放出だけなら詠唱などする必要はないのですわ☆それでも十分な破壊力はありますけども」
倒れていたロウファが平然と立ち上がる。少し頭を振り耳を叩くと振り向いた。
クリスの眉がピクリと動く。
「見かけによらず…案外タフですわね☆普通の人間なら即死する破壊力はあるのに…」
「痛みは…知らない…苦しさも…知らない…わからない…」
ロウファは立ち上がったが腹の皮膚は破け腸がはみ出しおびただしく出血していた。
「な、なんだ…これは?」
ロウファは溢れ落ちそうな腸を両手で抱え込む。
「ふふ、ロウファよ。大した傷ではない。まだまだ戦えるだろう?」
ブラックの言葉にロウファは頷いた。しかしその手は微かに震えていた。
「ブラック様…どうすれば…」
「とりあえず服を破り臓物が落ちないように腹に巻くのだ。そんなものがぶら下がっていたら動きが鈍るからな」
「了解しました」
ロウファはブラックの指示に従いコートを破り腹に無造作に巻いて縛る。その隙間からはとめどなく血が滲み流れ出していた。
「ふん、気持ち悪いガキですこと…痛みを知らないことは本当のようですわね。しかし、それが命取りになりますわ。どうして人は痛みに対して敏感なのか理解するとよろしいですわ!」
「…痛みと苦しみを…ワタシは知らない!」
ハンマーを床に叩きつけると粉塵が巻き起こりクリスの視界を奪う。
「視力を奪われても戦える死神の能力で有利になると思ったのでしょうが、甘いですわ☆」
クリスの足元に魔法陣が浮き上がると突如として大きくなり空気が震え出す。
「ッッッ!?」
空気の振動により髪の毛が震えてセンサーとしての機能を奪われる。
「ダメだ!ロウファ!このままでは下手に手が出せん!」
「ブラック様…奴の位置は…!?」
「目の前ですわ☆」
眼前にクリスが現れロウファの腹にボディブローを見舞った。その威力にロウファの体はくの字に曲がり浮き上がった。床に着地すると跪き腹を押さえた。
「少々フェアではなかったかしら☆魔法を使わなくてもあなたを圧倒することなど容易いことなのに☆」
クリスは体をほぐすように両腕をブラブラと揺らす。
「生意気な魔女め…」
すぐに立ち上がりハンマーを振り上げる。しかしクリスはそれを上体を反らし躱すと再びロウファの腹に鋭いパンチを見舞う。
「がっ!?」
「ほほほ☆場数が違い過ぎますわ☆」
ロウファに無数のパンチを叩き込む。
「がぁっ!!」
力一杯ハンマーを振るがクリスは素早い身のこなしで回避する。
「うぐ…」
激しく殴打された顔面は腫れ上がり視界が塞がれていた。口の中に血の味が広がる。鼻が折れて呼吸が出来ないために口で荒く息継ぎをしている。
「お分かりかしら?痛みを知らないことは決して有利に働きませんわ。人は先天的に痛みを恐れ拒んできた。その恐怖感こそが人を強くしてきたのですわ」
「ロウファ!どうした!?まだまだ動けるはずだ!!早くあの魔女を討ち取るのだ!!」
ブラックの檄が飛ぶがクリスは肩を竦めた。