14.魔女狩り

「なんだ…今の術は…!?」
死神が震えている。
クリスは再び魔導書のページをめくり詠唱を始める。
そして指で円を描くとその軌道に沿って光の輪が作られた。それは大きく膨らみ人が一人潜れる程になる。
「あなたにチャンスをあげますわ。この光の輪を受け止めるか、或いは上手く躱すことができるのか。あなた次第ですわ☆」
クリスが指を差すと光の輪は発射され向かってくる。その速度は緩やかで難なく輪の中をくぐれそうだった。
「これなら簡単に避けられる!!あの輪の中をくぐり抜けるのだ!」
死神は身をすくめ光の輪の中をくぐろうとする。
「甘いですわ☆」
クリスが指を開くと輪の中にメッシュ状に光の線が走る。

「くっ!?」
死神は大鎌で受け止めようとする。
しかし大鎌もろとも光の線が体を突き抜けた。
「はは…なんともな」
体に無数の切り傷が刻まれ徐々に広がっていく。そして体は細かい肉片となり床に崩れ落ちた。
大鎌の変化が解かれ首が切断されたカラスが床に落ちた。

残り一人の死神は戦意を完全に喪失していた。

「こんな…話…聞いてなかった…」
「ふふ、油断ですわ☆数が集まることにより一人の力は弱まってしまうもの。ましてや繋がりのない群れなど恐れることもありませんわ。烏合の衆などいくら束になったところで私の足元にも及びません」
クリスは魔導書をめくると再び詠唱を始める。

「さ、させるかぁーっ!今のうちに殺ってしまうぞ!」
死神が大鎌を振りかぶり素早く踏み込む。
しかしその額には銃があてがわれていた。

「え…?」

「魔女だから魔法しか使わないとは限らないことね☆」
クリスは引き金を引いた。
乾いた破裂音と共に死神の頭が弾け飛ぶ。弾丸は頭を貫通し倒れると形を失い魂になる。

「お前…何者だ?」
倒れた死神を見つめたままロウファが訊く。

「妖の蒼月といえばわかるかしら?」

「妖の…!?は…はは!!ついにブラック様にも運気が回ってきたぜ!ロウファ!こいつを仕留めれば大金星だぞ!!」
ブラックが興奮している。

「大金星?」
ロウファは興味が無さそうに抑揚のない声で聞く。

「魂10個!100…いや、1億に相当するぞ!!」

「1億…それだけあればワタシは解放されるのですか?」
「くくく、解放どころか現世でも何不自由なく暮らせるようにしてあげようではないか!」
「そうですか。ならば倒す!」
ロウファがハンマーを床に叩き下ろすと後ろ手に構える。

「あらあら☆やっぱり私と戦うのですわね?しかし…分相応をわきまえないと痛い目に遭いますわよ、お嬢さん☆」
クリスは不敵な笑みを浮かべたまま数頁魔導書をめくる。

「ワタシに痛みなど無い!」
ハンマーを軸に体を捻ると回転しながらロウファが飛び出す。

「なんの戦略もない猪突猛進だこと☆」
クリスの手から光弾が何発も放たれる。
しかしロウファはその全てをハンマーで弾きクリスの前に立つ。

「甘いですわ☆」
クリスは銃を向け引き金を引いた。
銃口から弾丸が放たれたがロウファはそれより速く身をよじり避ける。

「くっ!ちょこまかと!」
クリスは何発も撃つがロウファは全ての弾丸をかわした。

「う、うそ!?」
さすがのクリスもその身のこなしに驚き銃を捨てた。
「やはり銃は野暮だったかしら☆」

「一度見せた戦術を二度も見せるな…」
ロウファはかわした態勢からハンマーを振る。
クリスはそのハンマーを右手で弾く。
しかしロウファの追撃は止まらない。
重量があるハンマーとは思えない素早い連撃を繰り出す。
クリスはそのことごとく魔力を集中させた右手で弾く。

「し、しつこいですわね☆」